アンパンマン×バイキンマン。   







 バイキンマンはバイキン大魔王の子供で城の主でもある。
立派で中にラボも完備されている城は、それはそれはバイキンマンの地位と名誉と権力の象徴となるはずだったのだが
「バイキンマン!私のお洋服洗濯しなさいって言ったでしょー!」
 サクランボをイメージしたのかよく分からないファッションのドキンちゃんという居候に怒鳴られどやされ、毎日シンデレラのように働く日々。
「今日は食パンマン様とのデートなんだからっ!それとケーキ焼いてくれた?お弁当のサンドイッチはジャムおじさんの所から買ってきたでしょうね!?まさかそこらへんのヤマ○キパンなんてことだったら許さないからね――!!!」
 仲間のはずの彼女は何故か敵の仲間にお熱である。年齢的にも近く、そして黙っていれば可愛いドキンちゃんと一つ屋根の下で暮らしているバイキンマンはとても複雑な状況だ。


「じゃあ、行ってきまぁす♪」
 意気揚々と出掛ける彼女を沈んだ面持ちでけれど決して顔には出さずに健気に微笑んで見送った。
城の中に戻るとカビルンルンが足元にじゃれついてきた。
「…おなかすいたのか?」
指先で相手になってやりながら、バイキンマンは午後に片付けてしまわなければならない家事や仕事を思い出していた。
今日はラボにこもって新作兵器の研究をしたいのだが洗濯も掃除も残っているし、何より冷蔵庫の食料が少なくなってきているので買出しに行かなくてはならない。
「はぁ…」
 バイキンマンは本日何度目かのため息をついた。
 カビルンルンが「どうしたの?」とわらわら集まってくる。
「なんでもない…大丈夫だから」
 俺様はお前たちのお母さんだからな。しっかりするのだ。
しっかり…するのだ。バイキンマンはそっと呟くように言った。



  バイキンマンだって生きている。
バイキンは腐ったものがないと生きていけないのと同じで(腐ったものはさすがに食べないけど)やっぱりおなかはすくのだ。
 食べ物は実験では作れない。
毎週毎週アナタはどこでそんな技術を習得したんですか?とつっこまれそうなくらい過激なロボットを作るバイキンマンだったが、こればかりはどうしても自分でなんとかなるものではない。
と、いうわけで今バイキンマンは一人で町へと買い物に出かけているのだ。
「えっと…今日は…」
 買い物メモとにらめっこしながら、バイキンマンは店が立ち並んだ通りを歩く。
休日である今日は、店のおじさんが前へ出て景気よく大声を張り上げている。
 何か良い物はないかとふらふらと八百屋さんの前に近づくと、おじさんがにっこりとして
「お嬢ちゃん可愛いから安くするよ!」
 そう言ってバイキンマンの尻を撫ぜた。
「ひっ…」
 背筋にぞわぁっと気持ち悪いものが走って、バイキンマンは固くなる。
「けっ…結構ですっ」
 絡み付いてくるおじさんの腕を振り払ってバイキンマンは逃げだした。


 随分走ったところで、バイキンマンはやっと落ち着きを取り戻した。
足を止めると、前から来た若い男にぶつかって軽く舌打ちされる。
途端にむっとしたが、偶然ショウウィンドーに映った自分の姿を見て
「…俺様だって分からないんだ…」
 普段、ロボットに乗って町に現れる時はキャアキャア言って逃げ出すのに。
コスチュームを着ていないからだろうか?こうしていれば普通に見えるのかなぁ??バイキンマンはしばらくそれを不思議そうに眺めていた。
 ふと、香ばしいいい匂いが鼻腔をくすぐる。
何だろう、と思って周囲をぐるりと見渡すと、向かいのパン屋さんがちょうど焼きたてのパンを棚に並べているところだった。
「あ」
 バイキンマンの目がそこに釘付けになったのは、他でもない。そのパン屋さんの中に試食用の小さなバスケットがあったからだ。
それを見た瞬間、薄情なほどに腹がきゅうきゅうと空腹を訴えてきた。
 余分なものを買うお金はない。
今日はドキンちゃんに頼まれたものと、必要最低限の食料しか買わないつもりだった。
それでなくとも、バイキンマンの収入は安定していないのだ。贅沢は言っていられない。
「でも、パンは別に贅沢ではないのだ…」
 誰も聞いていないのに言い訳ように独り言を言って、バイキンマンは店の中へ入った。
 棚に並べられている焼きたてのほかほかの食パン――は、素通りして、一口大に切られた食パンに恐る恐る手を伸ばす。と、その時
「お嬢ちゃん、それは買う人が味見するのよ」
 レジにいるお姉さんに、ぴしゃりとそう言い放たれた。
「えっ」
 きょとんとしているバイキンマンを、胡散臭そうにじろじろ眺めるお姉さん。それは客に対しての態度ではなかった。
まるで犬でも追い払うかのような…。
 バイキンマンの顔に朱がさす。
耳まで真っ赤になって「すみません…」そう小声で言って逃げるようにして店を出た。
 きっと、小汚い奴だと思われたのだろう。
普段着といっても白衣の他にはあまり衣類を持っていないから、今日は一番ましな服を選んで着た。
黒の大きいサイズのトレーナーとジーパン。 それでも、中身はバレていたのだろう。
バレないようにびくびくしながら町を歩いていたというのに。
 それがとても滑稽で浅はかで馬鹿に思えてバイキンマンは自嘲気味に笑った。


「あんたさぁ…みかけない顔なんだけど」
 突然、バイキンマンの前に一人の女の子が立ちはだかった。
今時のきわどい格好で、ヒールの高いブーツをはいて仁王立ちをしている。
「ウサこちゃん…」
「はぁ?なんで私の名前知ってんの?」
「ウサこ、この子にすんの?」
「まだ子供だし、可愛い顔してんじゃん」
「カバお…ピョンきち…?」
 ウサこの隣に二人の男が立った。図体のでかく、色が黒いのがカバおで、ひょろっとしたにやつき顔の男がピョンきちだ。
…いつもアンパンマンを慕っている学校の子供たち。
 と、突然カバおに腕を掴まれて路地裏にひっぱりこまれた。
「なっ…!」
「まぁまぁ、大人しくしてくれたら痛いことはしないから」
 そう言って、思いっきり地面に叩きつけられる。
背中にすごい衝撃を受けて、バイキンマンは一瞬呼吸が出来なくなってむせた。
と、カバおが馬乗りになってバイキンマンの服を捲り上げる。
「やっ…嫌だっ。やめてっ」
 彼らの中で今一番流行っているおいはぎごっこだ。
「あ、財布みっけ」
 ポケットの中を探られ、薄っぺらい財布が抜き取られる。
それはピョンきちの手からウサこの手へと投げて渡された。
「返してっ!」
「なぁんだ…。あんまり持ってないや」
 ウサこがつまらなさそうに言うと
「ウサこ、あと貰っていい?」
 カバおがやけに目をぎらつかせて訊く。
バイキンマンはピョンきちが喉をごくりと鳴らせる音が聞いた。
「勝手にしな」
 その言葉が終わるか終わらないうちに、バイキンマンの両手がおさえつけられ、ジーパンに手がかけられた。
「いっ。いやぁ――。何っ、なんでっ…」
 何をされているのか分からずに、ただバイキンマンは泣き叫ぶ。
いや、泣いてはいなかった。泣いたってどうにもならないし、誰かに助けを求めることもしなかった。
そんなこと考えもつかなかったから。
 胸のあたりを汗ばんだ手でまさぐられる。
その気色悪さに吐き気を覚えた。
「…ぁっ。あぁ…いやぁっ…」
「感度良好」
「いっ…痛いぃ…」
 ぐぃっと髪の毛を掴まれ、上を向かせられる。
 と、バイキンマンの顔を覗き込んだピョンきちが悲鳴を上げた。
「これ、バイキンマンじゃん!!!」
「うそっ。まじ!?」
 わき腹あたりに舌を這わせていたカバおが動きを止める。
「げっ。サイアク!やべぇよ逃げろっ!!」
 体を拘束していた腕がなくなる。感触はまだ残っていたけれど…。




「…うぇっ…えっ…く…ひっ…」
 バイキンマンは泣いていた。
いじめられたからとか、雨が降ってきたからとか、そんな弱い理由じゃなく、ただお金が無くなってドキンちゃんに頼まれたものが買えなくなってしまったから、泣いていたのだ。
そう思っていた。
 急に降り出した雨は、町のみんなを家の中へと追いやってしまった。
バイキンマンは一人でただ道を歩いている。ピンチの時、この町の住民はそろってこう言うのだろう
『助けて! アンパンマン!』
 誰にも優しい正義の味方。呼べばすぐに来てくれて、助けてくれるスーパーヒーロー。
 でも、そんなヒーローもバイキンマンは助けてくれない。だってバイキンマンは悪者だから。


 バイキンマンは「悪」を糧として生きている。
「悪」がないこの町はバイキンマンが「悪」となって生きていかないといけない。
だからみんなに嫌われる。
だからみんなにいじめられる。
それは仕方ないこと。
「仕方ないんだ…」
 ざぁざあと遠慮なしに降りかかる雨は、とても冷たくて、体の芯まで凍えさせた。
「誰も…助けてくれない」
 バイキンマンは歩いていた。もう、方角が分からなくなるほど精神も体力も衰弱しきっていた。
 やっぱり、三度も食事はきちっと摂らなければならないな。
今更ながらにそう思った。


 家を見つけた。灯りがついていて、暖かそうな家。
軒先で雨をしのげるだけで良かった。
また、追い出されるかもしれないけれど、どうか雨が上がるまで居させて欲しかった。
白い壁に背も垂れて、バイキンマンは膝を抱えてうずくまる。
 誰の家だろう…。優しい人だったらいいなぁ…。
 あ、優しい人は、俺様には冷たいのか。バイキンマンは笑った。
 雨が降って良かったこと。それは、バイキンマンの涙を隠してくれたこと。
それだけだ。
「誰か…助けて」
 バイキンマンがそう呟いたとき、
 どかんっ。
 派手な音を立ててバイキンマンはふっとぱされた。
咄嗟に手をついたが、泥がびしゃっと跳ねて服を汚す。
「な、に…?」
「あぁ、バイキンマンか。黒くて小さいからてっきりゴミ袋だと思って蹴っちゃったよ」
 聞き慣れた、聞き慣れすぎた声が後ろで聞こえた。
「あ…」
 アンパンマン。どうしてここに…。
「どうしてって顔してるね」
 パイキンマンの腕を掴んで、無理やり立たせる。
「今、君助けてって言っただろ?僕は困っている人の所へ駆けつけて助けるのが仕事だから」
 そう、しゃあしゃあと言ってのけて、バイキンマンを家の中へ連れ込もうとする。
「なっ…誰もお前なんか呼んでないっ!!」
「ほら…唇も紫じゃないか」
「それはいつものことだ!」
「こんなに痩せて…ちゃんと食べてるの?」
 いつもおなかをすかせているのは事実だ。だけど、それはアンパンマンには関係ないことだ。
「服もぼろぼろで…まさかレイプされたんじゃないだろうね…君はロボットがないと何も出来ない人だから」
 散々勝手なことを言われて、バイキンマンは反抗しようとしたが、嗚咽が止められなくなってそれすらも出来なくなった。
「…うっ…あぁっ…俺様は、何も、してな、いっのに…みんな…いじめる」
「それはみんな君が嫌いだからだよ」
 その言葉は、バイキンマンの心臓を鷲づかみにして揺さぶった。
「じゃ、じゃあお前も俺様が嫌いなんだなっ。じゃあ、俺様がここにいる理由は無いし、今日はロボもないからこのくらいでカンベンしてやるっ」
 そうはき捨てて、バイキンマンはアンパンマンの手を振り払おうとした。
「…カンベンしてほしいのはこっちだよ」
 唇に触れる、暖かくて柔らかい感触。
「ぁ……な、に」
「キス」
「…っ。なんでっ」
 ぽかんとしているバイキンマンに、アンパンマンはもう一度唇を重ねる。しかしそれは拒まれて
「馬鹿っ…。お前、俺様に触ったから病気になるぞっ!俺様は…だっておれ、は。バイキンだからっ…」
「病気になるのは君の方だよ。こんなに濡れて…風邪をひかないうちに着替えた方がいい」
 アンパンマンは家の中へバイキンマンを投げ込んだ。
フラフラのバイキンマンは床に物みたいに叩きつけられる。
痛さに顔をしかめて、バイキンマンは何か反撃をしようとしたが、ふと周りを見渡して呟いた。
「ここは…」
「僕ん家」
   アンパンマンがふっと優しげな表情をして近寄ってくる。
しかし、玄関のドアの鍵はしっかりと閉められていた。バイキンマンは気づいていないが。
「綺麗な家だな…」
「そう?君のお城が汚いんじゃない?」
 バイキンだから。そう意地悪く付け足すアンパンマン。バイキンマンは顔を伏せた。
「ほら、服脱いで暖めないと」
「え?あぁって、ちょっと!」
 バイキンマンが頷く前にアンパンマンはバイキンマンの服をまくりあげていた。
「あぁ…跡がついてる。酷くされたんだね」
 そう腹立たしげにつぶやいて、突然バイキンマンのジーパンの前に手を這わせた。
「やっ!」
 びくりと震えて逃げようとするバイキンマンを片手で器用に床へ押さえつけ、アンパンマンはにっこり笑った。
「着替えないとダメだろ?バイキンマン。その前に体温めようね」
 その笑顔が、見惚れるほど…悔しいけど見惚れるほど優しくて、かっこよくて――バイキンマンは思わず頷いていた。
「いい子」
 唇が重ねられる。人の唇って柔らかいなぁ…バイキンマンは脳が麻痺したみたいにそんなことを考えていた。
「んんっ」
 と、突然歯列を割って熱い舌が入ってくる。びっくりしたバイキンマンは必死に抵抗を試みた。
が、両手を頭上でまとめて押さえつけられ、顔を背けようにももう片方の手で顎を掴まれそらすことさえできない。
「んっ…んん…ゃぁっ…」
 怯えて逃げる舌を探り出されて吸われる。
何度も何度も教え込まれるように舌を愛撫されると、酸欠ぎみの頭では何も考えられなくなってきた。
ただくちゅくちゅという音が頭の中でする。
「ぅっ…」
 やっと開放され、荒く呼吸をするバイキンマンを尻目に、アンパンマンはバイキンマンのジーパンに手をかけて、ジッパーをおろした。
「…ぁ?なに…するの」
「気持ちイイコト」
 ジー…という音がして、前が開けられる。アンパンマンは少しの間、バイキンマンの腰を辺りを直視していた。
「…細い」
 これじゃあ、元気な子供は産めないね。そんなからかいの言葉を投げかけて。
「あっ…いやぁぁぁ。なにっ、なにしてっ…やぁっ」
 なんの躊躇も見せず、そこを握り締めた。



「あっ…あぁ…、いやぁ、もうやめて…」
 懇願するように、そう見つめてくる二つの黒い瞳。長い睫は今はもう、涙に泣き濡れてしまっている。
「ごめ…ごめんなさいっ。ごめんなさいっ…許し…」
 そこから先は、悲鳴に飲み込まれる。
 まだ幼いとも形容される体は、荒々しい愛撫によって狂わされていた。
「いっ…ひっく…ひっく…」
 ずるり、と体内から何かが抜け出る音。自分の足の間にある他人の手。
バイキンマンは、どこか遠い目でそれを眺めていた。
「まだ指だけじゃない…。こんなので音を上げてるの?」
 さっきまで、優しい顔をしていた男。それが、今では、自分をおかしくさせる加害者でしかない。
「何回イったかなぁ…言ってごらん」
 ぐぃ、と顎を掴まれて顔を覗き込まれる。バイキンマンはそれに答えられなかった。
 と、それを見ていたアンパンマンはもう一度バイキンマンの中へと指を進める。
「あぁぁ――っ」
 バイキンマンは悲鳴と共に背をそらせた。
「言って」
「…ぁ、…わ、分からな…」
「ダメ」
 二本目の指が、潤滑剤で濡らされた指がバイキンマンの中に入ってくる。
「いやぁぁっ…」
 可哀相なほど痩せた体が、冷たい床の上でびくびくと震える。アンパンマンは無表情のまま、中をかき回し続けた。
「ほら、ここ」
 細く長い指が、バイキンマンの中の一点をえぐる。
「やぁ―――っ!」
 バイキンマンの、蜜を流し続けていたそれが白濁の液を零す。
けれど、達する最中にまで与えられ続ける刺激によって、快楽は永遠と思えるほど続いている。
「初めてなのに、才能あるね。バイキンマン」
 それとも初めてじゃないのかな?くすりと笑いながら、アンパンマンはバイキンマンの痛々しく立ち上がったそれを握りこむ。
バイキンマンが息を呑んだ。
「そろそろ僕も気持ちよくなっていいかな?」
「…ぁ…はぁっ…ぁ…っ。な…に…?」
 まだ訳が分からず、そう尋ねてくる愛らしい生き物に、アンパンマンは丁寧に微笑んでやる。
「愛してるよ、バイキンマン」
 その言葉に、バイキンマンは一筋の涙を零した。


「あぁぁぁ―――っ。いたいっ…熱いっ、あっ…熱いよぅっ」
 熱くて、大きくて、バイキンマンにとっては太い杭のような凶器で。
そんなものが体の中に入って、犯されていく、恐怖と快楽がごちゃまぜの感覚。
がくがくと揺さぶられて、何度も出し入れされて、自分が落ちぶれていくのが手にとるようにバイキンマンには分かった。
アンパンマンは静かにバイキンマンの反応を観察し、バイキンマンを押さえつけていた手を離した。
変わりに、両足を持ち上げて、これ以上ないくらいに広げて見せる。
「見える…?バイキンマン。君のココ、思ってたより淫乱でさ、おいしそうに銜えてるんだよね」
 いやいやをするように、首を振るバイキンマン。その様はなす術も無く殺される小動物に似ていた。これはもう、虐待の域だろう。
そうアンパンマンは自覚していたが、かといってこの行為を途中でやめるわけにはいかない。
「いたっ…ぃたい…」
 押し殺すように苦痛を訴えるバイキンマン。
けれど、アンパンマンと目が合うと、自分の指を噛んで必死に泣き声と悲鳴をこらえようとした。
きつく噛みすぎた指からは、血が滲んでいる。
「誰もいないから、声出して良いよ?」
 すごく残酷なことを言っているなぁ…アンパンマンは自分の鬼畜さに苦笑したが、バイキンマンはふるふると首を振る。
どうして?そうアンパンマンが訊くと
「…っ。いたいって…言ったら、ダメ…だっ…」
「ダメ?」
「…誰もっ…助けて、くれない…から、いたいとか、言ったら…ダメ、だってっ」
 バイキンマンの目からぽろぽろと涙が零れ落ちる。
それは、初体験の痛さによるものなのか、精神的にものなのか、アンパンマンには分からない。
「いたいって…言えるのは、…ぁっ。たすけてもらえる人、だけだから…」
 そう、いつも誰かに守られている人だけだから。
 だから
「…俺様は…だれにも頼らないって…決めてるから」
 バイキンマンは、うっすらと微笑んで気を失った。



「…ぁ?」
 バイキンマンが目を覚ましたのは、少し薄暗いところで。
寝かされているのは、どうやらベッドのようなふかふかした所らしい。
 不安になって立ち上がったら、体内から出てくるどろりとした液体の感覚に足がすくんだ。
「あっ、やぁぁっ…」
 途端に、さきほどの情事が鮮やかに蘇る。
つまりさっきのことは夢ではなくて。
もちろん喘いでよがっていた自分もニセモノではなくて。
敵に犯されて喜んでいた自分は、とんでもなく愚かな生き物に思えた。
 おまけに全裸。
「やっと目が覚めた」
 羞恥で軽い眩暈を感じていたバイキンマンのすぐ傍で声が聞こえた。と、後ろから抱きつかれてまたベッドに押し付けられる。
「あっ…ゃっ。誰っ」
「誰って…僕しかいないだろ」
 そう言われて、抱きすくめられる。その暖かさは、何故かバイキンマンを安心させた。
「君は、あんな世界で生きてきたんだな…」
 アンパンマンは、なにやらわけの分からないことを呟いた。
はっきり言って、バイキンマンはあの最中に何を口走ったかなんて覚えてはいないのだ。
何かとんでもないことを彼に言ったに違いない。
「お嫁にきなよ…バイキンマン」
 そして、そう呟いて、髪をすいて。額にキスして、手を繋いで。
…まるで慈しむように。
「これ以上、辛い思いはさせないから」
 …じゅうぶん、さっきの辛いんですけど。
そう思ったバイキンマンだったが口には出さなかった。だって、もう少しだけでもこの暖かさを感じていたかったから。
「愛してるよ」
 なにに同情したかは知らないが、目の前の憎き敵はそう言った。バイキンマンは、理解するのが辛くて返事をしなかった。


「…さよなら。アンパンマン」
 夜中、バイキンマンはこっそりとベッドを抜け出た。服は椅子の背もたれにかけてあった。…下着も。

 だっておかしいだろう。悪役と正義の味方が仲良しだなんて。
 正義の味方は悪役だけには優しくなっちゃいけない。
そうだろう?


「俺様にはドキンちゃんが待ってるから…」
「バイバイ、アンパ…あっ間違った」


「バイバイキーン」

 朝、目覚めたら。そこには、誰もいなくて。これは予想できていたことだけれど、アンパンマンは思わず苦笑した。
「そっかぁ…愛と勇気だけが友達ってのも辛いよなぁ…」

  アンパンマンの平和を守る一日がはじまる。




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