籠の鳥 一章
殴られたのだと分かったのは、頬が痛み出した一瞬後。
「…ぁ」
バイキンマンは信じられない気持ちでアンパンマンを見上げていた。
「バイキンマン」
アンパンマンが抑揚のない声でバイキンマンを呼び、バイキンマンは唇をきゅっと噛んでアンパンマンを見つめる。
二人は、無言のまましばし睨み合ったが
「バイキンマン…毎週毎週君のくだらないイタズラの尻拭いをさせられるのはもうウンザリなんだよ!!!」
突然のアンパンマンの剣幕にバイキンマンは唖然として彼を見上げた。
けれど、バイキンマンの脳がその言葉の意味を理解し、バイキンマンはなお唖然としたまま、なんとか
「ごめ…んなさい」
間の抜けた謝罪の言葉を口にした。
それを聞いてアンパンマンは「はぁ?」と白い目をし、踵を返して立ち去ろうとする。
バイキンマンはアンパンマンの予想外の行動にびっくりしてうろたえた。
今まで、こんなに冷たいアンパンマンはなかった。
いつも「ごめんなさい」と言えば許してもらえた。
許してもらえなくても、アンパンマンはこんなに怖くなった。
今回は徹底的にアンパンマンに嫌われたのかと思った。
「ごめんなさい…!ごめんなさい…!」
バイキンマンはアンパンマンを追いかけてアンパンマンの腕を掴んだ。
「ごめ…っ」
しかしその腕は邪魔っ気に冷たく振り払われる。
バイキンマンはショックで固まってしまった。
その顔があまりに可笑しかったのか、間抜けだったのか、アンパンマンは口の端を吊り上げた形で笑いながら
「君でもやっぱり罪の意識はあるの?」
恐ろしいほどの偽善笑顔でバイキンマンの腕を掴んだ。
「足開いて。バイキンマン。その身体で罪を償えば?」
ドタンッ。
フローリングの床に乱暴に押し倒される音。
弱弱しい抵抗の声。衣擦れの音。
今日は、どうしてだかバイキンマンの抵抗が少ないので、アンパンマンはあっさりバイキンマンの服を取り払うことが出来た。
「…っ。アンパンマン…」
一糸纏わぬ姿になったバイキンマンは、泣きそうな顔をしてアンパンマンの背中に手を回し、ぎゅっとしがみ付く。
「僕が怖い?バイキンマン…」
バイキンマンはふるふると首を振った。怖くないと言えば嘘になる。
だけど、
「アンパンマン…っ」
以前と雰囲気が違うアンパンマンに、以前の意地悪だけど優しかったアンパンマンが消されてしまったのではないかという不安の方が大きかった。
アンパンマンは目を細めてバイキンマンを見つめ、おもむろにバイキンマンの前を掴んだ。
「い…っ」
バイキンマンはひくっと身体を震わせ、目に涙を滲ませる。
アンパンマンはまるで汚いものでも見るような目つきでバイキンマンを見下し
「僕はみんなに優しくしなくちゃいけないけど、君には優しくしてあげない」
氷点下にまで下がった声音で、バイキンマンに言い放った。
「あぅ…っ。いた…ぁ」
ぐちぐちと下半身から聞こえる粘着質な音。
バイキンマンは下半身の異物感をなんとかやり過ごそうと、身を捩る。
それが腰を揺らして自ら誘っているようにアンパンマンには見えた。
前は触れぬまま中指と人差し指を深々と突き刺し、奥まで視姦するために入り口を広げると、バイキンマンのそこは充血して鮮やかなピンク色になっていた。
バイキンマンが息を整えようと浅く早く呼吸するたびに、入り口がひくつき、熱い内部はアンパンマンの指に物欲しげにからみつく。
「誘ってるんだ」
「違…!」
アンパンマンは冷笑をバイキンマンに向け、前をやんわりと撫ぜあげた。
鼻にかかった甘い声があがる。
「バイキンマン、見てみなよ。君のこれ…」
言われなくても、バイキンマンは気づいていた。
前に直接触れられなくても、バイキンマンの性器はすでに反応を示していることに。
アンパンマンの嘲りの言葉が聞こえた。
バイキンマンは両腕で顔を覆った。
許されるなら耳も塞いでしまいたかった。
「誰がそっぽ向いていいって言った?」
だけど、アンパンマンはそれも許さなかった。
髪を掴まれ、強引に正面を向かされる。
アンパンマンはほんの二、三秒バイキンマンの顔を凝視し
「もう、泣いてるの?」
呆れたように呟いた。まだまだこれからだからね。
そんな言葉もバイキンマンの耳を通り過ぎていく。
酷いことをされるよりも、殴られるよりも
淫乱。
不潔。
そんな言葉の方がよっぽどバイキンマンを傷つけていた。
しっかりとバイキンマンの身体に己を感じさせるように、アンパンマンはバイキンマンの下の口に自身を咥えさせた。
気休め程度にしか慣らされていない後孔は、アンパンマンの怒涛を受け入れるに当たって苦痛を生む。
「ふっ…ぅ、あ…あぁっ…」
バイキンマンは手で口を押さえ、声を出さないように懸命になっていた。
けれど涙はとめどなくぽろぽろと零れ落ちる。
アンパンマンは冷めた瞳のまま、体勢を動かすこともなく、バイキンマンの胸の突起に手を伸ばした。
摘むように指で触るとバイキンマンの身体がびくんと震えた。
アンパンマンは構わず指の腹で摘んだり、爪でぐりぐりと刺激を与える。
「い…っ。痛い…よ、いた…」
バイキンマンが身を捩って、アンパンマンの愛撫が強すぎると訴えた。アンパンマンは表情を変えずバイキンマンの下半身の方へ手を這わせ、先よりも強い力で半立ちのそこを握り締める。
「痛い!いたっ!や、やめ…っ」
バイキンマンの目が驚きと恐怖で見開かれる。
しかしアンパンマンが一睨みすると、バイキンマンは怯えたようにひく、と睫を震わせもう一度手を口に押し当て声を殺した。
アンパンマンはなおもそこを手酷く握ったり爪を立てたりして攻め立てる。
バイキンマンはその度にくぐもった悲鳴を漏らした。
バイキンマンの身体なのに、まるで自分のものじゃなくなったみたいだった。
アンパンマンは検査か実験のように、無表情で無慈悲にバイキンマンの身体を弄んでいる。
けれどその強すぎる刺愛撫に慣れた身体は、痛みを快感に変えてしまう。
最早バイキンマンの身体の奥ではじくじくと不快な疼きが起こり始めていた。
「たす…けて」
とろとろと先端から蜜が溢れてくるのが分かる。
今すぐ自分で慰めてしまいたかった。
だけどそんなことをすればさらに折檻されてしまう。
結局、アンパンマンに頼るしかないのだ。
しかしアンパンマンは何もしてくれなかった。
ただ、冷めた瞳でバイキンマンを見下ろし、視姦している。
「君を好きなようにはいかせないからね」
バイキンマンは悲しくなって、また泣き出した。
泣いたら「うるさいよ」冷たい声で言われて、どうしてだか不覚にも、体内のアンパンマンをぎゅっと締め付けてしまう。
こんなに長い時間、動かずに咥えさせられたのは初めてだった。
じくじくがじんじんに変わり、どうしようもない痺れに似た快感がバイキンマンを襲う。
「ひ…ぅ」
どうにか、この状況から逃れたい一心でバイキンマンはゆるゆると腰を動かし始めた。
ぐちゅ、と下から水音が聞こえ、バイキンマンは耳まで赤くなる。
それを見たアンパンマンは嘲笑して
「そんなに気持ちよくなりたいなら、自分で動いてよ?」
バイキンマンの腕を掴み、ぐるんと世界を反転させた。
「ひぁっ」
体位が変わったことによって内部に当たる角度が変わり、バイキンマンは背を反らせる。
「僕を気持ちよくしてくれたら、逃がしてあげるよ」
アンパンマンはにっこり笑ってバイキンマンの涙で汚れた頬を撫ぜた。
その言葉にバイキンマンは首を振ってアンパンマンに縋り付く。
「で…出来な…。無理…っ」
もう、腰に力が入らないし、膝もがくがくしていて言うことを聞かない。
その上、焦らされすぎた身体は辛くて辛くて、何も考えることが出来ない。
だけど
もしかしたら、アンパンマンは許してくれるかもしれない。
と思った。
いつもみたいに「仕方ないね」って言ってキスしてくれて―――。
けれどその希望はあっけなく打ち砕かれる。
「じゃあ我慢だね」
「―――いぁ!あんっ!あぁっ!」
突然の激しい突き上げに、バイキンマンは狂ったように泣き叫んだ。
「やめ!あっ!あぁっ!」
悲鳴は次第に甘ったるい声に変わっていく。
「はは。バイキンマンって本当、」
アンパンマンがバイキンマンの胸の突起に軽く歯を立てながら
「馬鹿で淫乱」
目を細めて笑った。その冷たく鋭い眼光にさえ、バイキンマンはぞくりと快楽を感じてきゅっと蕾に力が入ってしまう。
「今ので感じたんだ?」
アンパンマンはくすりと笑い、バイキンマンの前を握った。
「やぁ――――っ!!」
爆発寸前だったバイキンマンのそれは、少しの刺激で絶頂を迎えてしまう。
白濁の液を吐き出しながら、バイキンマンは大好きだった人の顔を、涙でぐしゃぐしゃの視界の端に見た。
この日、バイキンマンはとても不安だった。
最近アンパンマンの姿を見ないから、とても不安だった。
だから少し馬鹿なことをした。町をめちゃくちゃにしてしまった。
自分でも馬鹿だと分かっていたから、アンパンマンが怒るのも無理はないと思った。
「行かないで…」
バイキンマンは泣き過ぎによる酷い頭痛で思考がぼんやりしたまま、そう呟いた。
身体は相変わらず動かないし、関節とアソコがとても痛い。
冷たい床に横たわったまま、何も出来ない。
アンパンマンはさっさと身支度を整え、ドアに向かっている。
「嫌わないで…」
ほとんど自分にしか聞こえないような声でバイキンマンは呟き、自分を押し殺すように目を閉じた。
アンパンマンがまったく別人に思えた。
だけど、やっぱりアンパンマンはアンパンマンで。
だから、今も町のみんなを守るため、パトロールに出かけるのだろう。
バイキンマンへの「お仕置き」が済んだら、バイキンマンにはもう用はない。
(でも、俺様は…)
繋ぎ止めるだけのために身体を差し出すんだ。
なんて浅ましいんだろう。
なんて汚らわしいんだろう。
でも他に差し出すものなんて何もないんだ。
「バイキンマン…?起きてるの?」
アンパンマンは服を整えてから、失神したはずのバイキンマンに近寄った。
どちらのものとは分からない精液にまみれた幼い体。
アンパンマンの呼びかけに応えた様子はない。
ただ血の気を失った顔をして、目を閉じている。
アンパンマンは死んだように眠っているバイキンマンにそっと口付けをして、その場を立ち去った。
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起きたら、誰もいなかった。
身を起こすと、鈍い痛みが体中に走る。
「アンパンマン…?」
心細くなってそう呼ぶが、返事はない。
バイキンマンは呆然としてしばらくフローリングの床にへたり込んでいた。
ガチャリ。
暗く静かな部屋に、ドアノブを回す音が響いた。
一筋の光が見え、一人の青年が部屋に入ってくる。
「おか…えりなさ…!」
バイキンマンがフラフラしながら近寄ると、彼はにっこり笑みを返し
「ただいま」
と言った。
その刹那、
かちゃり。自分の手首にかけられる枷。
冷たい金属の、ひやりとした感触がバイキンマンの素肌に触れた。
「逃げなかったんだ」
どこか、嬉しそうな、安堵のような、アンパンマンの声。
自分の首に、黒い首輪をされるのを、どこか遠い気持ちでバイキンマンは見つめていた。
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