第二章



 もうそろそろ、時間の感覚がなくなってきた…。

 今日は何日だろう。

 ドキンちゃん、心配してるかな。それはないか…。

 カビルンルンにごはんあげてくれてるかな…。

 この部屋には、時計もカレンダーも、テレビもない。

 バイキンマンに与えられるのは、快楽と苦痛。

 それを与えるのは…ただ一人。バイキンマンを捕らえて、離さない人…。






「ただいま、バイキンマン。寂しかった?」
 ガチャリ、とドアを開ける音がしてバイキンマンはそちらの方へ顔を向けた。
 本当はおかえりなさいを言わないといけないんだろうけれど、今のバイキンマンにそんな気力はなかった。
 アンパンマンは、すたすたと近寄ってきて、バイキンマンを抱きしめる。
そして、どこか楽しげな口調で、バイキンマンの耳元に囁いた。
「バイキンマン、今日は君のラボへ行ってきたよ」
「え…?」
「そこで、こんなものを見つけたんだ」
 アンパンマンの手の中にすっぽりと包み込まれるほどの大きさの、小ぶりの広口ビン。
 そしてその中でゆらりと光る、薄褐色の液体。
「それは…っ」
 ドキンちゃんに頼まれて作った、「惚れ薬」。
しかし、それは相手に性的な欲求をも喚起させる「惚れ薬」というよりも「催淫剤」と言った方が的確な代物で(ドキンちゃんにそのように頼まれたのだから)、バイキンマンにはそんな技術はなかったけれど、怪しい本を多少気分が悪くなりつつも読んで勉強して、作った薬だった。
だが、効き目を確かめられず、ドキンちゃんに渡すのには躊躇していたのだった。
 
「君が作ったんだから、君の身体で確かめないとダメだよね」
「…いゃ…っ」
 何をされるか安易に予想できたバイキンマンは、青くなってじりじりと後ろに逃げる。
 その度に硬い金属音が鳴り響き、とうとう鎖はこれ以上逃げられないようにと、ぴんと張り詰めてバイキンマンを拘束した。
「君が作ったんだから、死んだりしないだろう?」
 アンパンマンの手がバイキンマンの肩にかかる。
バイキンマンは一層ぴくりと震えて腕と首をベットの足へと繋ぐ鎖をじゃらじゃら言わせながら、なおも逃げようとした。
「殺しはしないよ。殺したって意味はないんだから」
 アンパンマンが腕を伸ばしてバイキンマンを抱きしめる。
バイキンマンは声にならない悲鳴を上げて、ガタガタと震えていた。
アンパンマンはそれを愛しそうに見つめ、バイキンマンの髪の毛にキスをして、バイキンマンをフローリングに横たえる。
「やめて…」
「大丈夫だよ」
「助けて…」
「死にはしない」
 アンパンマンはそっとバイキンマンに口付けて、バイキンマンに着せていたシャツのボタンを外していった。
それはアンパンマンのシャツで、監禁されてからバイキンマンの身につけているものの全てはアンパンマンの物だ。
 着る物以外に、食べ物も、なにもかも。
 アンパンマンがバイキンマンの行動の何から何まで決定権を持つ、絶対支配者になっていた。
 それが苦痛なのか、幸せなのか、バイキンマンには判らない
 身体を差し出すことで一緒にいられるなら我慢できる、とさえ思ったこともあった。
 それが、こんな状況を生んだのだろうか。
 それとも、ただ単にアンパンマンはバイキンマンの薄汚い行為に制裁を与えるべく、こんなことをしているのだろうか。



「バイキンマン、もっと足を広げて」
 すっかり下を覆う布も取り払われて、バイキンマンは上にはだけたシャツを纏うのみとなっていた。
 バイキンマンはアンパンマンの指示通り、膝を曲げて両足を外へと開いていく。
「もっと」
 アンパンマンの手がバイキンマンの太ももにかかり、強引に広げようとする
。戸惑いぎみに開いていた足は、あられもなく広げられてしまった。
 アンパンマンは満足げでも、楽しげでもなく、淡々とバイキンマンのそこを見つめている。
(きっと…汚らわしいと思ってるんだ…)
 バイキンマンがきゅっと唇を噛むと、アンパンマンは安心させるように…かどうかは分からないが、バイキンマンの頬を撫ぜた。
 バイキンマンがちょっとだけ緊張を解くと、アンパンマンは惚れ薬の蓋を開ける。
 潤滑剤代りに使うつもりなんだろう。アンパンマンは薬を少量指先に取り、バイキンマンの下の口へと塗りこめはじめた。
「…っ」
 ぷちゅ、くちゅっと水音が漏れ、指先がバイキンマンの内部に入る。
バイキンマンは次にくる異物感に耐えようと身体を硬くしていたが、指はそれ以上中には入ってこなかった。
そのかわり
「あぁぁぁ――っ!!!」
 バイキンマンの蕾に冷たいガラスの感触が伝わり、内部に入ってこようとしていた。
「い…!無理っ、無理ぃ…!」
 ビンの口をバイキンマンの蕾に入れようとするアンパンマンの手を、バイキンマンは必死に止めようとしたが、アンパンマンの手は容赦なくバイキンマンの蕾にビンの口を咥えさせようとする。
「力抜いて…ほら、入った」
「あ、あぁぁ…っ」
 バイキンマンは目を見開いて、信じられないというように自分の局部を凝視していた。
 こんなに酷い仕打ちをされるなんて、思ってもみなかった。
 こんなに残酷なことを平気でされるなんて、思ってもみなかった。
「ちゃんと飲もうね」
「ん…くっ」
(いや…!入ってくる…!!)
 ひやりとして、どろっとした液体が直腸の中に注ぎこまれてくるなんともいえない気持ちの悪い感触。
「ほら、全部飲まないとね」
 ぐいっと足を持ち上げられ、腰を高くする格好になる。おまけに足を広げられて、そこを覗き込まれてしまう。けれど、見られるという羞恥よりも今は、体内に流れ込んでくる薬の感触に総毛だっていた。
 もともと、紅茶やジュースに小さじ一杯ほど入れて飲ませるための薬だったのだ。
「やっ!やめて…!そんなに沢山なんて俺様…!!」
 狂ってしまうか、これは本当に死んでしまう!
バイキンマンは泣きながら訴えたが、アンパンマンはそれを聞き入れることなく、その上にこりと笑ってみせた。

「ひ…っ!うあぁぁっ――!」
 ビンの底をぐりぐりと押され、バイキンマンの蕾をみしみしと広げるようにビンの口が入ってくる。
「バイキンマンの可愛い口がこんなに伸びきって、いやらしいよ…」
 アンパンマンは少しだけ嬉しそうに微笑み、バイキンマンの痴態を見下ろす。
 バイキンマンの花芯は、ビンが前立腺を押し上げた刺激によって半ば強引に反応させられていた。
 その上、きっともう少ししたら薬が効き始めて、恐ろしいことになってしまう。
「ひあっ」
 ずぼっと、空になったビンが抜かれた。
 だらしなく開いたままのバイキンマンの蕾からは、だらだらと薬が漏れてくる。
「出したらお仕置きだからね」
 アンパンマンはバイキンマンの胸の突起をつまみ上げ、片方を口に含む。
バイキンマンは小さく悲鳴を上げて身を捩った。
アンパンマンはバイキンマンの体をさらに拘束するため、バイキンマン自身を握り締める。
「いぅっ」
 バイキンマンの下腹に力が入り、蕾がきゅっと慎ましやかに締まった。
 アンパンマンの手は、なおもバイキンマンの花芯を弄り続ける。
しかも根元を戒めているため、バイキンマンは達することが出来ずに、与えられる快楽は体の奥に溜まっていく。
 しばらくして、
「薬が効いてきたのかな…」
 アンパンマンが、バイキンマンを弄る手を休め、バイキンマンの顎を掴んで上を向かせた。
 薄く上気した頬、
 ピンクに色づいた唇、
 なめらかで染み一つない白い肌。
 普段は子供っぽい印象の体だが、今は薬のおかげもあってか、アンパンマンを狂わせるほど儚げで危険な色香を漂わせている。
 アンパンマンは思わずそんなバイキンマンに見蕩れてしまっていたが、すぐに絶対的な笑みを浮かべ、バイキンマンに言い放つ。
「入れるよ?バイキンマン…」
 バイキンマンは黙って涙を湛えた瞳でアンパンマンを見つめていた。




「あぅ…っ。あぁっ!ひ、――っ!!」
 ズブズブと埋め込まれていく、アンパンマンの怒涛。
ある程度は解されていたとはいえ、バイキンマンの入り口はきつかった。
異物感は吐き気を催すほど強い。
 しかし、薬のおかげかバイキンマンの前は萎えることをせずに、だらだらと蜜を零し続けていた。
「いぁ…っ、あ、ぁんっ…!」
アンパンマンに両手を押さえつけられ、身動きを取ることも出来ないまま、バイキンマンはアンパンマンの全てを受け入れさせられた。
「あぁ…っ」
 ぎゅ、っと瞑った目から涙が一筋零れる。
「いつもより色っぽい声だね」
 アンパンマンがバイキンマンの唇を舌でなぞりながら、くすくすと笑った。
バイキンマンの両手を拘束していた手を外し、そこかしこに焦らすような愛撫を始める。
 胸の突起を触られる度、花芯に悪戯をされる度、バイキンマンの内部はひくひくと反応をしめしていた。
「アンパンマン…っ」
 アンパンマンのものがバイキンマンの内部に入り、その存在を主張している。
 バイキンマンが助けを求めて伸ばした手は、受け止められることなく宙を掻いて行き場を失った。
アンパンマンが冷たい目でバイキンマンを見下ろしている。
 バイキンマンは自分でも、アンパンマンをきゅうきゅう締め付けて、腰をゆるゆると振っていることに気づいていた。
「ほら、バイキンマン。ちゃんと奉仕して。僕を感じてよ」
「ぁ…は、…っ」
 体の奥に発生した熱が、バイキンマンをおかしくさせる。
めちゃくちゃに突いて欲しいと、縋り付きそうになってしまう。
甘くて辛い快楽が、後から後から生まれて、バイキンマンを支配していく。
「あぁっ…いや…ぁ、そん、な…!」
 突然、バイキンマンはびくんと震え、信じられないというようにいやいやと首振った。
 バイキンマンの花芯は触れられずとも、ただ蕾に熱くて太いアンパンマンの肉棒を挿入されただけで、達してだらだらと白濁の液を零してしまっていた。

 細い肩がガクガクと震えて、頬に涙が伝う。
 バイキンマンはアンパンマンの名前を呼んだ。
それに応えてくれる声はなくても、今のバイキンマンには関係なかった。
ただ、この拷問に近い快楽から、解き放たれたいだけだった。
「イカせ、て…っ」
 アンパンマンが苦笑して、キスをしてくれたのが分かった。



「あぁぁぁ―――っ!!」
 ぐちゅ、ずちゅ、と激しくなる卑猥な水音。
 泣き声とも喘ぎ声とも付かない声。
「ひぅっ!あぁっ!」
 がりがりと、床を引っ掻く爪の音。
 バイキンマンのイイトコロを、アンパンマンが的確に突いて、バイキンマンにあり得ないほどの快楽を叩きつける。
「いやぁぁ―――っ!!」
「またイッちゃったんだ、堪え性がないね。バイキンマンは」
 ズルズルと陰茎を抜き出すアンパンマンに、バイキンマンは更に甲高い泣き声を上げる。
「もっと欲しい?」
 この行為をもうやめて欲しいのか、それとも続けて欲しいのか、バイキンマン自身にも分からなかった。
 すでに何回イッたのかさえ分からなくなるほど、バイキンマンの花芯は自身の精液でしとど濡れている。
「い、うぁぁっ。あぁぁぁっ!!」
 ズドン、と音がするほど穿たれて、バイキンマンの背が仰け反った。
 体を揺さぶられて、何もかも分からなくなっていく。
「あはは、すごいや。トロトロに溶けてるのに、ぎゅうぎゅう締め付けてくる」
 バイキンマンの内部を掻き回すように、アンパンマンはめちゃくちゃに動いていた。
 そんな乱暴なセックスも、薬で強制的に発情させられたバイキンマンにとっては全てを快感に変えてしまう。
「ひぃあぁぁっ――っ!」
 半ば透明に近い精液を吐き出して、バイキンマンは何度目かの絶頂を迎えた。
もうすでに、無茶な吐精は鈍痛をもたらしている。
 けれど
「いやぁ!…っ!もぅ、無理…!!」
 バイキンマンの熱が冷めても、アンパンマンが満足するまで、その行為は終わりを告げられなかった。










「媚薬なんだろ?僕に惚れた?バイキンマン」
「…っく」
 バイキンマンは啜り上げて泣いていた。バイキンマンのアソコは薬と精液に濡れてドロドロになってしまっている。
「…僕のこと好き?」
「…」
「なに?聞こえないんだけど」

「好き…」
 蚊の鳴くような声で、バイキンマンは言った。
アンパンマンは、片方の眉だけ吊り上げて、バイキンマンの顎を掴む。
「効いたフリしてるの?それとも本当に効いてるの?」
「好、き…」
 バイキンマンは泣きながら続けた。
 けれど、いつもは笑って返してくれる彼の姿はどこにもなくて。
 それでもやっぱり、バイキンマンはその言葉を繰り返していた。


 優しくてかっこよくて、みんなの人気者のアンパンマン。
 それが羨ましくて、憎らしくて、バイキンマンはいたずらをして気をひくことしか出来なかった。

 薬が効いているわけではない。効いているフリをしているのでもない。
 だけど、それがアンパンマンには分かってもらえない。
「好き…」
 
 アンパンマンは、飽きれたようにため息をついて、バイキンマンの顎を掴んでいた手を離した。

「嫌だ…っ。いかないで…っ」
 アンパンマンがこの部屋から出て行きそうになったので、バイキンマンは腕を伸ばしてアンパンマンの服を掴んだ。
 アンパンマンがいなくなったら、バイキンマンはこの薄暗い部屋の中で一人ぼっちだ。
「僕が君を置いてどこかに行くと思う?」
 バイキンマンの心を見透かしたのか、アンパンマンは苦笑しながらバイキンマンを抱きしめる。

 その嗅ぎ慣れた匂いに、バイキンマンは反射的に安心して、体の力を抜いた。
 今、バイキンマンにとってはアンパンマンは加害者であるが、バイキンマンの命を握る人間だ。
 アンパンマンがいなくなれば、バイキンマンはここで餓死か衰弱死するしかない。
 これは、おそらく「監禁」というものだろうから。
 アンパンマンに逆らえば、自分は…。



 違う。そんなんじゃない。
 きっと、そんなものじゃない。


 バイキンマンは、優しいアンパンマンが大好きで、
 アンパンマンと一緒にいられるのなら、全てを失ったって構わないと思ったことだってあった。
 だから、きっと、これは「監禁」なんかじゃない…。

 アンパンマンはそんなことしない。




「ねぇ…」
 バイキンマンが小さく問いかけても、それに返事は返ってこなかった。











 目が覚めたとき、そこにアンパンマンはいなかった。がらんとした部屋が、バイキンマンを唯一存在させていた。
 おなかがすごく痛くて、胸が締め付けられるようだった。



「…っ」
 忘れられたような涙が一滴、ぽろりと零れた。









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