それぞれ
それぞれの朝。
「カレーパンマン、ロイヤルミルクティー淹れてくれませんか?」
「ロイヤルみるくてぃ〜!?そんなもんねーって!ただの紅茶だろ」
それぞれの朝。
「これ…食べたら帰れよ」
「はいはい。これは美味しそうなフレンチトーストだね」
目の前に置かれた、いい香りのする朝食。
アンパンマンは思い切り朝の空気を吸い込んだ。
「誰が作ったって同じだろ!」
バイキンマンは怒鳴って、リンゴジュースをテーブルに置いた。
しばらく、無言の朝食。
ちょっとだけ、気恥ずかしい朝食。
「ごちそうさま。じゃ、君のお望み通りおいとまするよ」
「待てよ!礼ぐらいしろ馬鹿!」
バイキンマンはやっぱりアンパンマンに怒鳴って、怒鳴ってから不安げな顔になって、俯いた。
「…。そうだね。ごめんね」
アンパンマンは、穏やかな顔でバイキンマンに歩み寄る。
そして、そのままがばっと抱きしめたらキリキリと背中に爪を立てられた。
「痛いなぁ」
「ざまぁみろ」
「…」
「…」
くすくす。やがて、可笑しさを我慢するような笑い声が聞こえはじめた。
それぞれの昼下がり。
パン配達途中の食パンマン(正しくはワゴン)を偶然見かけたカレーパンマンは、暇だったのでトコトコ追いかけて、背後から呼びかけた。
すぐに、ワゴンは調子のよさそうなエンジン音を立てて止まった。
「ちょっと乗せてってくれよ」
「いいですよ」
カレーパンマンの急な頼みに、食パンマンは笑顔で受け入れた。
バタン。ブロロロ…
車はまた走り出した。
「…なぁ、なんでお前働いてんの?」
なんとなく沈黙になりそうだったので、カレーパンマンはそんなことを聞いた。
「知りたいですか」
食パンマンはフフッと微笑を浮かべ、逆に聞いてきた。
「知りてぇよ」
カレーパンマンは素直に答えた。よく考えれば、不思議である。
食パンマンに汗水たらして働くということはあまり似合わない気がするのだ。
ほっといても女が勝手に貢いできそうだし。
それとも労働もまた、彼の美学なのだろうか。
「カレーパンマンを養うためですよ」
「はぁ!?嘘つけ馬鹿。」
あまりに突拍子な答えに、カレーパンマンは目を見開いてつっこみを入れた。
「嘘ですよ」
「嘘なのかよ!?」(爆笑田中風)
「おや、嘘じゃ嫌ですか?」
「ばっ…」
そーゆーわけじゃないけどさー。カレーパンマンは口を尖らせてそっぽを向いた。
「嘘ですよ」
「わかってるての!」
二回も言わなくてもいいって!
カレーパンマンは無性に腹が立って、助手席のシートをガコンと倒す。
フフ…食パンマンは目を細めて優しげな微笑を浮かべ、安全運転に徹しはじめた。
カレーパンマンは首を九十度曲げて、窓の景色を眺めている。
「カレーパンマン、コインの裏の裏は何ですか」
「はぁ…?」
またコイツは…。新しいポエムでも作るつもりか?
カレーパンマンは呆れたが、律儀にちゃんと答えてやった。
「裏の裏は表だろー」
「そうですよ」
いやだからナニ?
それ以上言葉を続けない食パンマンに、カレーパンマンは苛立ちを超えて脱力した。
こいつにテンポを合わせると調子が狂う。くそ。
「じゃあ、嘘の嘘は何ですか?」
「は?」
嘘の嘘…?
それは。
それぞれの昼下がり。
「カビルンルンは、パパって言うかお父さんって言うかどっちがいい?」
「かびー?」
「お前…何の話してるんだよ…」
バイキンマンは、紅茶が入ったティーポットをテーブルに置きながら半眼で訊ねる。
するとアンパンマンはにこっと笑って答えた。
「バイキンマンと僕が結婚して、カビルンルンが正式に僕の息子に(僕的にはバイキンマンさえいてくれればいいんだけどバイキンマンがカビルンルンを可愛がってるから仕方なく)なった場合の呼び方」
「はぁ!?」
バイキンマンは呆れてつっこみもできない。
けれどアンパンマンはにこにこしながらカビルンルンをいじめ遊んでやっていた。
少ししてバイキンマンは、やや困惑ぎみに
「アンパンマン、お前その年で父親になりたいのか…?」
「え…?」
アンパンマンはぽかんとした表情でバイキンマンを見た。
さりげにアンパンマンのプロポーズを否定しなかったバイキンマンだった。
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