カレーとバイ子は実は仲良し説。
「あ」
「おや」
アンパンマンと食パンマンは、夜中のパン工場の前でばったり会った。
「やぁ…」
「はは…」
いつもなら、なんともないことなのだが、今は少し状況が違う。
二人の間に気まずい空気が流れた。
気まずいというよりも…。
アンパンマンがこのまま立ち去るにも立ち去れず、言葉を探していると
「お盛んですね」
食パンマンの方からわざわざつっかかってきた。
アンパンマンはぐっすり寝ているバイキンマンをお姫様抱っこしていた。
「そっちこそ」
アンパンマンも負けじと応戦した。
食パンマンは熟睡しているカレーパンマンをおんぶしていた。
「ははは…」
「ふふふ…」
二人の間に不穏な空気が漂い始めた。同族嫌悪とはこのことだ。
誰か、他の人間ならば適当なことを言って誤魔化せるのだが流石に相手がこれだとバレバレだろう。
両方がそう思っていた。
「う…」
何かよからぬ雰囲気を肌で感じ取ったのか、バイキンマンが目をこすりながら起きてしまった。
そして、真っ先に食パンマンを見つけ小さく悲鳴を上げる。
過去のトラウマをまだ引きずっているらしい。
「んっ…アンパンマン。食パンマン…がいる」
「よしよし。僕がいるから怖くないよ」
バイキンマンは食パンマンの前で目に見えるほど怯えて、ぎゅうぅっとアンパンマンにしがみついた。
アンパンマンはバイキンマンに優しい笑顔を向け、額にキスを落としてから、次に食パンマンの方を向いて勝ち誇ったようににやりと笑う。
食パンマンはそれを見て「はっ」と鼻で笑った。
「よくそんな子供に欲情しますね」
その言葉にアンパンマンはカチンときた。バイキンマンは不安そうな顔をして二人の間に挟まれている。
「よくそんな色気のない子に欲情するね」
「私はまだ情に任せて彼を汚したことはないですよ！」
「まだやってないの！？」
アンパンマンは驚愕と軽蔑に満ちた目を食パンマンに向けた。
「ん…」
アンパンマンの声で、カレーパンマンが目をこすりながらむっくりと起き出した。
「おわっ！？アンパンとバイキンと、食パン！？？」
食パンマンの背中の上でカレーパンマンはもそもそと暴れ出す。
食パンマンはしぶしぶといった様子でカレーパンマンを背中から降ろした。
「危なかったね、カレーパンマン。もう少しで食パンマンにおか」
「あーっ！！あーっっ！！」
食パンマンはアンパンマンの軽率な発言に柄にもなく取り乱す。
「……むーっ」
寝起きでご機嫌ななめだったバイキンマンはむずがってアンパンマンの腕から逃げだそうと試みていた。
けれど、アンパンマンは食パンマンと口論の続きを勃発するかの瀬戸際で、バイキンマンのことを頭からすっぽかしてしまっている。
「家…帰る！」
「ん？あぁ、そうだな。帰った方がいいな」
バイキンマンの抗議をカレーパンマンが聞き入れてくれ、バイキンマンはやっとでアンパンマンの腕から抜け出し、カレーパンマンの元へトテトテと近寄った。
「いいのか？あれ…」
カレーパンマンがアンパンマンを指差し、バイキンマンに問う。
「俺様関係ないもん」
バイキンマンは子供のようにつっぱねて、「早く帰ろう」とカレーパンマンの手をひいた。
「ん…あぁ、そうだな…」
「ヘタレ！」
「幼児虐待！」
「ナルシスト！」
「ショタコン！」
我を失くして罵り合う正義のパンたちを遠い目で見つめ、カレーパンマンはバイキンマンとその場を去った。
帰る途中
「バイキンマンはアンパンマンのこと好きなのか？」
カレーパンマンは少しバイキンマンをおちょくってやろうと考えて、バイキンマンが恥ずかしがるような質問をした。
「んー…」
バイキンマンはしばらく考えて
「分かんない」
アンパンマン本人が聞いたらショックで白くなってしまうようなことを笑顔で答えた。
「じゃ、じゃあ、誰が好き？」
「ドキンちゃん！」
「さよか」
まぁ、ある程度は予想できていたが…。
「あと、えーと…。リンゴちゃんとー。あ、カレーパンマンも好き」
にこ、と笑うバイキンマン。
「おぉ、そうかそうか」
その意外な答えに少し気をよくして、カレーパンマンはわしゃわしゃとバイキンマンの頭を撫ぜた。
なんだか弟が出来たような気分だ。
「秘密な」
カレーパンマンはポケットからアメを取り出してバイキンマンの手に握らせる。
バイキンマンは満面の笑みでありがとうと言った。
これが悪の科学者？否、今はそんなことはない。アメ一個を喜ぶ悪役なんて…。
「お前、犬みたいだなぁ〜」
「カレーパンマンは猫みたいだ」
「嬉しくねぇ！！！」
「え？えっ？」
とにかくバイキン城到着。
「じゃあね、バイバイキーン」
「おう、バイバイ」
「おやすみなさい」
「よく寝ておっきくなれよ」
「うん！」
なんだかカレーパンマンにバイキンマンをとられてるぞ。
いいのかアンパンマン。
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