感動のフィナーレの一歩手前




「おはようバイキンマン」
「…」
「バイキンマン?」
「…えっ?」
 ぼんやりと台所に立って皿洗いをしていたバイキンマンはびっくりして振り返った。
そこには不満げに頬を膨らませているドキンちゃんがいた。
「な、なに?」
 機嫌を損ねてはマズイとバイキンマンは手を軽く拭いてドキンちゃんと向き合う。
「別におはようって言っただけよ。それだけ」
 ドキンちゃんはつっけんどんに言い返して、さっさとテーブルの席についた。
「あ…うん」
 おはよう…。聞こえるか聞こえない程度の小さな声でバイキンマンも朝のあいさつをした。
目線を流しに戻して、皿洗いを再開する。
「ちょっとぉ〜。朝ごはんはー?私が待ってるの分からないのー?」
「え、あっ。あ、そっか。うん、今すぐ」
 バイキンマンははっとして冷蔵庫を開ける。が、
「…ぁ」
 ドキンちゃん専用朝の激熟パンがなくなっていた。
(↑ジャムおじさんの手作りです。ジャムおじさんは大手パン会社の脱サラです。バイキンマンは変装して買いに行っています。)
 仕方なく、戸棚からゲロッパコーンフレークを取り出す。
恐る恐る牛乳と一緒にドキンちゃんの前に置いてみたら案の定
「なによーこれ。私の朝は激熟が無いとはじまらないのぉ〜!」
 ちゃぶ台返しはされなかったが、不満をぶつけられた。
「…買いに行ってきます」
「ちょ、ちょっと!どこ行くのよー!」
 バイキンマンはふらふらと台所を出ていく。
まるで地に足がついていないような幽霊のような足取りで。
「わ、分かったわよ!食べるわよ!食べればいいんでしょー!」
 ドキンちゃんの怒鳴り声は空しくリビングに響き渡った。


「…あれ?」
 バイキンマンは城の庭先ではたと足を止めた。
今朝はどうしてだか頭がぼんやりとしていていけない。
「何してたんだっけ?」
 後ろを振り返って自分の行動を思い返す。
手ぶらで靴も踵をつぶしたスニーカー。
とてもじゃないが町に何かをしにいくという格好ではない。
「あ、そうだ。ドキンちゃんのパンを買いに行こうとしたんだっけ…」
 パン。
 食パン。
 アンパン。
 …アンパン。
「…うぅ――っ!!くそっ!くそっ!どうしたんだ俺様!今日はちょっとおかしいぞ!!」
 ブンブンかぶりを振って頭の中に浮かんで消えそうにもない正義のヒーローの顔を打ち消そうとする。
それでも聞こえてくるのは、たった一人の男の声、顔、体温。
それから蟻が群がってきそうな位の甘くて蕩けるような言葉。
リフレインされる奴の感触。
「あぁ…ぅ。アンパンマン…」
 バイキンマンはがくんと脚を折って地面に膝をついた。
抑えていないとどうにかなってしまうそうな自分の体をぎゅっと抱きしめる。
「…ぅ、変…。変だよぉ…俺様。身体、変」
 俺様の体、アンパンマンに変なことされておかしくなっちゃったんだ。
おまけに食パンにも変なことされるし…。
バイキンマンは目に涙を一杯溜めて立ち上がった。
「……仕事しよ」
 渦巻いていたもやもやをかき消すように、家事に精を出すことにしたのだった。
ドキンちゃんの食パンをすっかり忘れて。


 掃除はいい。
やる前はめんどくさいという気が起きるが、やりはじめてみるとなかなか楽しいもので、バイキンマンは鼻歌を口ずさみながら廊下を拭いていた。
さっきからちょろちょろと視界の端に入ってくるのはカビルンルンたちだ。
何をしているのかとバイキンマンがそちらに目をやると、なんと彼らはバイキンマンの気を引こうと折角箒で集めたチリや埃を小さな足でぱたぱたと踏んで散らかしていた。
「こら!」
「かびかび〜」
「えぇっ!?カビルンルンがしゃべった!?」
「かびかび〜」
 カビルンルンは大きな目をぱちくりさせてバイキンマンを見上げている。
「ちょ、もう一回言ってみろ!カビルンルン!」
 カビルンルンはこくんと首をかしげていたが、不意にゴミの入ったチリトリを掴んで走り出した。
「あぁっコラ!」
 がこんがこんブリキのチリトリを柱やら床にぶつけて中のゴミをそこら中に撒き散らしていく。
「うわぁ…」
 綺麗に磨かれた廊下が盛大に汚されていくのを唖然として見つめていたが、バイキンマンは我に帰ってカビルンルンたちのいたずらを阻止すべく彼らを追いかけ始めた。


「待てー!こらっ!かびるんるん!」
 追いかけっこと勘違いしたのか、カビルンルンたちははしゃいで庭先を駆け回る。
「かび〜」
「かびかび〜」
「うわっ。やっぱりしゃべってる。…かびかびって…」
 カビルンルンはどうやら喋れるらしい(公式サイトにて)
「おいでカビルンルン。他に何か喋ってみせて」
 バイキンマンは腰をかがめて両腕を広げてみせる。
追いかけっこに飽きてでんぐり返しをして遊んでいたカビルンルンは嬉しそうに飛びついてきた。
「かびかび〜」
 短い腕を精一杯伸ばしてバイキンマンに抱きつく。
そんなカビルンルンの子供らしく一生懸命なところにバイキンマンは微笑した。
「『かびかび〜』じゃなくて。あいうえお、とか。逆に言いにくいだろ…かびかびなんて」
 バイキンマンが呆れまじりにかびるんるんの頭を撫ぜてやると、カビルンルンはぷっくりしたほっぺを寄せて甘えてくる。
「かび〜」
「はは…」
 和やかな雰囲気でバイキンマンがカビルンルンをかまってやっていると、突然バイキンマンに抱きついていたカビルンルンがガタガタと目に見えて震えだした。
それどころか周りでじゃれていたカビルンルンたちもバイキンマンの後ろの方を見てガタガタと震えている。
「…?どうしたんだ」
 バイキンマンが怪訝に思って振り向こうとしたとき
「こんにちは。やぁ、元気そうで何よりです」
「――っ!???」
 耳に馴染むような心地よいバリトンとやけに丁寧な口調。
「ひぃっっ!!」
 男の姿を確認した途端、バイキンマンは声にならない悲鳴を上げて尻餅をついていた。
一刻も早くここから逃げ出そうと足に力を入れるが腰が抜けて立ち上がれない。
 恐怖をあらわにするバイキンマンを見て男はくすりと笑った。
「覚えてくださって光栄ですよ」
「…って、おい食パンマン。なんだよこのバイキンマンの尋常ならぬ怯えっぷりは」
 隣からひょっこり現れたのはカレーパンマンだった。食パンマンを白い目で見てから、バイキンマンへと目線をずらす。
「…やっ!」
 犯される!バイキンマンの頭の中で危険信号が最大音量で鳴っていた。
「今日は俺がいるから大丈夫だって。食パンはなんにもしねぇよ。…多分」
まだ不信な目をしているバイキンマンにカレーパンマンは手を差し伸べた。
バイキンマンは恐る恐るそれを掴む。
「残念ながら、今日はバイキンマンには用はないんですよ。あるのはドキンちゃんでね」
 食パンマンがやんわりとカレーパンマンとバイキンマンを引き離すように間に割って入ってきた。
そのままあっさりとマントを翻して行ってしまう。
「ってお前、何人はべらしてんだよ」
 カレーパンマンは軽くため息をついてその後について行った。
「…………。なに、今の」
 取り残されたバイキンマンは一人呟いた。


「ったく、お前もスキモノだなぁ」
 単なるからかいのつもりでカレーパンマンは食パンマンにそう言った。
「一度アンパンマンがハマってる体ってのを味見したかっただけです」
「ぐはっ!?味見って!!」
 が、かえって相手の知らない方がいい部分を知ることになってしまった。
「顔は可愛いんですけど、体がねぇ。痩せすぎで色気がイマイチ。もっと成長してからでしたらアンパンマンも誘って三人で…なんて考えましたけど。今のところはカレーパンマンでいいですよ」
 お前は親父か。お前は何様だ。しかも俺かよっ!?
沢山の言葉がぐるぐる渦巻いて、カレーパンマンは言葉に詰まった。
そんな彼の様子を見て食パンマンはくすりと笑い
「カレーパンマン」
「な、なんだよっ」
「ヤらせて下さい」
 愛してるから。そこだけは真顔でいう卑怯な男。
「ドキンでいいじゃねーか!何で俺だよ!?」
 カレーパンマンは青ざめて怒鳴っていた。


「今日も異常なしっと」
 アンパンマンは町の上空を一周してパン工場へと戻ってきた。
この町はいつも平和だ。
それが良いところであり悪いところでもある。
水面下を見ず、表面だけ見れば平和ということだ。
平和といっても小さないざこざはあるし、悪人だっているだろう。
それが表立ってないというだけで。

――ただ、一人ものすごく分かりやすい「悪人」を除けば。

「バイキンマン…」
 アンパンマンはそっと愛しい人の名前を呟いた。
それと同時にバイキンマンの顔や姿が鮮明に思い出される。
 アンパンマンに初めてキスされたときの驚いた顔。
何をされているのか分からなくて、ただ泣くことしか出来なかった可哀相な少年。
快楽にただ喘いでいるときの表情。
 そして…涙をこらえて笑ってみせた顔。
「バイキンマン…僕は…」
 君に沢山酷いことをした。泣かせることもした。
 酷い奴だと罵られて当然だ。今更だと思われるかもしれない…。
 だけど君さえ笑っていてくれれば、それだけで僕は…。
 僕は、まだ君の本当の笑顔を見ていない…。


 バイキンマンは庭先にバケツを運んでいた。
カビルンルンたちのせいで掃除が一からやり直しだ。
濁った水を砂のところに流し、蛇口をひねって新しい水と取り替える。
 と、その時後ろに誰かの気配がした。
咄嗟に食パンマンたちだと思った。
「もう…しつこい――っ」


「――――」

「…今、何か聞こえませんでした?」
 城の中でドキンちゃんとお茶をしていた食パンマンは、談笑をやめて窓の外を見た。
「…あぁ、そう言えば」
 ちゃっかりご一緒させてもらっているカレーパンマンも、たった今聞こえた微かな声に何やら不穏なざわつきを覚える。
 ただ一人ドキンちゃんだけは「そうかしら〜?それより食パンマンさまぁ〜」食パンマンに上目遣いでアタックしていた。が、
「もしかすると」
「もしかして…」
「「…バイキンマン?」」
 二人は同時に立ち上がった。


「…ぅ。いったぁ…。ここ、どこだ…」
 バイキンマンは薄暗いところで目を覚ました。
座らされているところは冷たい床で、何故か両腕がつるように痛い。
「…えっ?なんだよこれっ!」
 痛む首を持ち上げて上を見ると両腕が手首のところで縛られて、そのロープは天井に備えつけられている滑車に通されて吊るされている。
 膝立ちで、両腕を上に上げて固定された状態。
「…」
 一瞬夢か現実か、はたまた何かの冗談かとパニックを起こしかけたバイキンマンだったが、急にドアが開いて誰かが入ってきたことにより、現実なのだと思い知らされた。
「やっほー。バイキンマン」
 聞いたことのある声だ。飄々として、軽そうな…
 パチン、と電気のスイッチが入れられて、そこに現れたのは
「ピョンきち…」
「あ、覚えててくれたんだー。ウレシーナ」
 にやにや笑うピョンきちと、好色そうな笑みを浮かべたカバおだった。
「なっ…!どうして!?」
「どうして…?」
 バイキンマンの質問に、カバおが嬉しそうに答える。
「バイキンマンが調子に乗ってるから」
 調子に乗ってる…?
「ってのはタテマエでー。本当は俺らで乱交パーチーしようと思って」
「この前ヤりそびれたもんな」
「そうそう」
「食パンマンとかととヤってんなら俺らとヤっても変わんねーよな」
「てわけだから…」
 バイキンマンは信じられないというように目を見開いて震えていた。
 嫌だ…誰か…助けて。嘘だ。誰も助けてくれない。嫌だ。誰か誰か。
 どうか…。きっと誰も…。誰か助けて。
「早速いただきまーす」

 『助けて アンパンマン』


「動くなよ」
 そう言って目の前にちらつかせたのは細身のナイフ。
 彼らが出してきた携帯用のナイフは見た目よりはるかに切れ味良く、バイキンマンの衣服を切り裂いた。
切れ味が良いということは、少しでも動けばバイキンマンの肌も一緒に傷つけてしまうというわけで
「怪我したくなかったら動くんじゃねーぞ」
 カバおがそう言う前にバイキンマンは身を硬くしていた。
体を覆うものがないだけで、こんなにも人は心細く、弱くなるのだろうか。
「可愛いな」
 カバおがバイキンマンの胸を直視する。
バイキンマンは俯いてその羞恥に耐えていた。
耐えていたのは羞恥だけではない。恐怖もだ。
けれど、目に溜まった涙は堪えられずに一筋の線を作って頬に流れた。
「綺麗な身体だな…」
「…っ」
 カバおの舌がバイキンマンの胸の突起を舐める。
条件反射で体をそらそうとしたバイキンマンだったが、喉元で鈍く光るナイフませいでそれも出来なかった。
「カバお、早くしろって」
 ナイフをバイキンマンの喉元に突きつけているピョンきちは苛立たしげにカバおを急かした。
カバおはちっと舌打ちをして、バイキンマンの足に手をかける。
「…ぇ?あ、――っ!」
 バイキンマンは足を大きく開いた格好で、秘部を曝け出される。
「やっ、やだっ。恥ずかしい…!」
 カバおがじっくりとソコを視姦する。
「ここもピンクだ」
 満足そうにそう呟いて、バイキンマンのソコへと舌を這わせた。


「…っ、…く」
 最も敏感で感じやすい所でうごめいている軟体動物のような他人の舌。
 ちゅっと音を立てて会陰を吸われると、堪えきれない吐息が漏れた。
「感じてるな」
 頭上から浴びせられる、ピョンきちの冷たい言葉。
バイキンマンはそれを否定するように首を振った。
「だ、れが…!お前らのなんか全然気持ちよくないに決まってんだろ――!!」
 陵辱されるのがくやしくてバイキンマンはそう叫んだ。
「へぇ…そんなこと言っちゃうんだ。バイキンマンは」
 ピョンきちが軽く笑ってバイキンマンの唇を指先で撫ぜた。
ナイフを床に置き、そのまま後ろから抱きすくめるようにして胸へと手を伸ばす。
「おい!ナイフ」
「いいじゃん。もう抵抗する気も無いデショ」
 カバおの注意をピョンきちは軽く受け流してバイキンマンの胸の突起をいじり始めた。
「ほら、下やってあげてヨ」
 ピョンきちはにやりとした笑みを浮かべたまま、カバおに下のペッティングを促す。
カバおは腑に落ちないといった感じだったが、すぐにその行為に没頭しはじめた。
「…ぅ、あ…っ」
 胸の性感帯を指先で摘まれる。
指先はコリコリと刺激するように動いたり、こねくり回すように動いたり。
初めは痛くて仕方なかったバイキンマンだったが、腰の辺りから生まれるむず痒い感覚は痛みだけではないと物語っている。
「ひっ!?」
 突然、バイキンマンの性器に何かが絡み付いてきた。
ふしの高いごつごつしたカバおの指だ。
舌は相変わらずちろちろと会陰と蕾周辺を緩やかに行ったりきたりしている。
「気持ちよくしてやるって」
 カバおはそう言うなり、バイキンマンの先端に爪を立てた。
「―――――っ!!」
 強すぎる刺激と痛さにバイキンマンは悲鳴を上げてのけぞる。
その唇を塞ぐようにピョンきちが横からキスをした。
悲鳴で開いていたバイキンマンの口にピョンきちの舌がぬるりと進入してくる。
「んぅ!ん――!ぅんんっ!」
 嫌だ!嫌だ!
バイキンマンは必死にそう叫んだがその声はくぐもって言葉にならない。
 カバおの手がゆっくりとバイキンマンのそれを扱いだした。
バイキンマンの腰のあたりに甘い疼きが生まれ始める。
 嫌なのに。本当に嫌なのに…。バイキンマンはぽろぽろと涙を零した。
しかし、愛撫している手の動きに合わせて腰が微かに揺れているのは事実だ。
それを否定しようとして何か言おうとしても、バイキンマンの鼻にかかったような甘い声は、カバおとピョンきちを喜ばせるだけだった。
「あれ、泣いてんじゃん。カバお痛くしてるんじゃないの?」
「ばっか。これ見ろって。完全起立」
 カバおはそう言ってバイキンマンの性器を指で弾いた。
「あぁっ!」
「…聞いた?『あぁっ』だって」 「かわいー」
 バイキンマンの涙に歪んだ視界の中に、悪魔みたいな男が二人、バイキンマンを見下ろしていた。


「――っい!あ、痛い!いた…ぁ、いたいっ、痛いぃ…」
 容赦なく突き進んでくる指。
拉致されてここに連れ込まれて一体どれくらいの時がたったのだろう。
そんな思いも後ろから突き上げてくる痛さに中断させられる。
「どう、カバお」
「すっげぇキツい。でも暖けぇし柔らかい」
「…だってさ。」
 良かったね、ガバガバじゃなくて。ピョンきちはかがみ込んでバイキンマンにそう言った。
しかしその顔を睨みつける余裕など今のバイキンマンには無い。
「あ、はっ。あぅ…、うっ」
 気休め程度にしか湿らせていない指は滑りがよくなく、バイキンマンの内部で襞を絡みつかせながら奥へと進んでいく。
その刺激はまだ経験の少ないバイキンマンにとっては苦痛以外の何者でもない。
「ちょっと、カバお。痛がってんじゃん」
 かしてみろって。唐突にピョンきちがカバおを押しのけた。
カバおの指が強引に引き抜かれバイキンマンが悲鳴を上げる。
「こうやんの」
 ジェルでたっぷり濡らされたピョンきちの指が一気に二本バイキンマンの中に入っていく。
「ぃっ…あっ、やあぁぁんっ」
「あ、ここだ」
 入り口近くでぐるっと回し、すぐにバイキンマンのいいポイントを見つけたピョンきちは、そこばかりを攻めたてた。
「ここ?ここがいーんだよね」
「あ、あっ、やんっ。ちがっ…あぁぁぁっ」
 こりこりとした前立腺のあたりをピンポイントで攻められてバイキンマンの先端から蜜がどっと溢れる。
「慣れてるねー。バイキンマン。お口は狭いんだけどさ、中トロトロ。前もやってやるから」
 ピョンきちの巧みな愛撫に翻弄されてバイキンマンはもう限界に近かった。
堪らない快感を抑えるために力を入れた太ももがひくひくと痙攣をする。
「イっていーよ」
「い、っ。だれがっ!あ、あぁぁ――」
 ピョンきちがバイキンマンの胸の突起を強く摘んだ。
「ホラ」
「あっあぁっ。やめっ――っ!」
 ピョンきちがバイキンマンの性器を強く擦りあげたと同時にバイキンマンは達していた。


「…く、ひっく、…ぅっ」
 カバおの手がバイキンマンの顎を掴んで上を向かせる。
「これからが本番だからな」
 そう告げられる言葉はもう、バイキンマンには聞こえていない。
 ただ、一人の男の顔が頭に浮かんで、それのせいで泣いていた。

 アンパンマン…。

「バイキンマンっ!!!」
 突然扉が開いて、光が差し込んだ。
 バイキンマンには、全てスローモーションに見えた。
 一人の男が入ってきて、陵辱者の一人を蹴り、もう一人を殴りつける。
殴られた方は壁に叩きつけられて呻いて崩れた。
「逃げろ!」
 ピョンきちが外に飛び出て、カバおがその後を追うように逃げていく。
 一瞬の出来事だった。
「…ぁ、アンパンマン?」
 逆光でよく見えないけれど
「怖かっただろ…」
 その優しそうな声と手はきっとその人で。
「くそっ!あいつら…」
 舌打ちしながら、バイキンマンの腕を拘束していた縄を外してくれた。
 体が自由になっても、バイキンマンは惚けたまま正義のヒーローを見上げていた。
「……どうして」
「どうして?」
 その質問に、彼は笑みで顔を歪めてバイキンマンを抱きしめる。
ふわっと体が温かいものに包まれて、その瞬間にバイキンマンは泣き出しそうになった。
「君が助けてって言ったからさ」
 バイキンマンは黙って彼の肩に自分の額を押し付けた。彼は黙って頭を撫ぜてくれる。
「…なんて、実際そんなかっこいいものじゃないな。君を守れなかったから…」
 アンパンマンの顔が急に曇った。
その表情をバイキンマンは見ていなかったけれど、声が微妙に震えているのが良くわかった。
「そんなこと…そんなことないっ!」
「バイキンマン…」
 抱きしめていた腕の力が不意に弱まる。
体が離れてしまうのを恐れてバイキンマンは必死で抱きついた。
「泣いていいよ…。辛かっただろ?ごめんね。本当にごめん…。僕もあいつらと同罪だ。君に…あんなことをしたから」
 そうなだめるように言って、バイキンマンの体を離す。
そしてマントを脱いでバイキンマンの肩にかけた。
「そんな僕が君を守るなんて言うの、すごく可笑しいよね。それに、君を見てると虐めたくなる。可愛いから。…ごめんね。どうりで僕のこと、嫌いなハズだ」
「ちがっ…!俺様はっ…お前のこと、嫌いじゃない、から…」
 食パンマンやカバおやピョンきちにあんなことされた時は、ただ悔しくて怖くて仕方なかったけれど、アンパンマンだけは違う。
確かに悔しくて怖かったし痛かったけれど…。
「俺様、嫌じゃなかった…お前だけは…」
 辛いことをされているわけじゃないのに、ぽろりと涙が一つこぼれた。
胸がぎゅうぎゅう締め付けられるような感じがして苦しかった。
 自分の気持ちを言葉に表せられないのがもどかしくて。
 バイキンマンは、アンパンマンの首に自分の腕を回した。
「アンパンマン…」
 名前を呼んで、そっと唇を重ねあわせる。
 ほんの一瞬。きっと一秒にも満たない時間。
 唇を離したときのアンパンマンの顔はとても驚いていた。
「…バイキンマン?」
 信じられない、といった表情でバイキンマンの頬に手を寄せる。その手に自分の手を重ねあわせて、バイキンマンは呟いた。
スキ
 誰にも聞こえないような小さな声で。ただ一人、愛する人にだけは聞こえるような声で。
「バ…バイキンマンっ!」
 アンパンマンは目を見開いてバイキンマンの肩をがっしり掴んだ。
バイキンマンは頬を赤く染めてそっぽを向く。
「俺様、正義の味方は大嫌いだ。
俺様悪者だし、どうせみんなから嫌われてるし。
でも、お前が助けに来てくれたときは…う、嬉しかったぞ。
冗談でも好きって言われた時も…。お前にとったら沢山の中の一人かもしれないけどっ」
 バイキンマンにとっては精一杯の告白だった。恥ずかしくて堪らなくて、それでも相手の反応が気になってちらりとアンパンマンの方を伺ってみた。すると
「バイキンマン…今、自分がどんな格好してるか気づいてる?」
 やけに真剣な目でそう告げるアンパンマン。
目線はバイキンマンの目じゃなくて、それよりもはるかに下の方を見ている。
「…?」
「裸マント…。しかもマントは肩にかけてる。そして赤面した泣きそうな顔。まるで襲ってほしいかのような」
「馬鹿!」
 バイキンマンは目に一杯涙を溜めてアンパンマンを殴った。


「服切られてるよ…どうするんだい?」
「う、うぅー」
「僕が抱っこして家まで送ってあげようか?」
「はっ!?」
「ここからだと僕の家の方が近いから、そこで着替えてく?誰にも見つからないように上空飛ぶからさ」
「……くそっ」
 アンパンマンを殴ってみたものの、襲われたときに服は無残にも切り裂かれてしまっていて結局一人では外に出ることも出来ずバイキンマンは地団駄を踏んだ。
 自分の不甲斐なさに涙が出てくる。
「バイキンマン、可愛い」
「うるさい!」
「ねぇ、バイキンマン。恋人になろう?お嫁の前にまずそこからだよね」
 突然投げかけられる、甘い言葉。
そんな言葉に免疫がないバイキンマンは一気に赤くなってしまう。
 仮にもさっき告白をしたところなのに。
「馬鹿っ。お前、恋人ってのは、好きな人同士が…っ」
「スキだよ。前から言ってるでしょ」
 バイキンマンもさっきスキって言ってくれただろ。
そう言って、近くににじり寄りバイキンマンの頬を撫ぜるアンパンマン。
「みんなが見てるところでは敵で、それ以外は」
「こい…びと?」
「そう。スリルあって楽しいんじゃないかな」
「変だ」
「どうして?」
 バイキンマンはむぅっとふくれてそっぽを向く。
「変だから」
「…何不貞腐れてるのさ」
「別に」
 強情につっぱねるバイキンマンに、アンパンマンはくすりと笑って
「悪い子はお仕置きだね。よいしょ」
 そう言って軽々とバイキンマンをお姫様抱っこして担ぎ上げた。
「なっ。何するんだっ!」
「だから、帰るんだよ」
「誰も頼んでなんか!」
「はいはい」
 軽くあしらわれて、バイキンマンは仕方なくアンパンマンの首に腕を回した。


「落とすなよ」
「分かってるよ」
「でも変なところ触るな」
「はいはい」
「…それから、俺様のほかに、何人『愛してる』って言った?」
「…なにそれ」
「うるさいな!」
「うるさいのは君だよ」
「さっさと答えろ馬鹿ぁ!」
 きゃんきゃんうるさいバイキンマンはそれはそれで可愛くてからかいがいがあるのだが、そろそろ可哀相になってきたのでアンパンマンは答えてあげた。
「…君が初めてだよ」
「…ぇ?」
 バイキンマンの目が見開かれる。
「君が初めて。こんなにかっこいい正義の味方に『愛してる』なんて言わせたのは君が初めて」
「…っんなわけないだろウソツキ!」
 アンパンマンの腕の中でじたばた暴れるバイキンマン。照れ隠しにしては分かりやすすぎる。
「俺様は悪が好きだもん!正義は嫌いだっ!」
「はいはい。でもさっき僕に『スキ』って言ってくれたよね?」
「幻聴だ!」
「はいはい」
「そ、それからっ。これからも俺様は悪に走るからな!」
「どうぞ。どうせ毎週僕にやられて終わるもんね。これからは容赦しないよ?次の日立てなくなるまでしっかりその体に教えてあげる」
 にこり、と笑ってみせる正義の味方にバイキンマンは血の気がひいた。
「や、やっぱり俺様、アンパンマンは大嫌いだ――っ!!!」
 バイキンマンの叫びは虚しく空へ消えていった。




「……てめぇのやることは理解できねぇな」
「え?どうしてですか?」
「だって、バイキンマンが襲われてる場所まで突き止めたのにそれをわざわざアンパンに教えるなんて」
「どうしてです?バイキンマンはアンパンマンのものだから当たり前じゃないですか」
「ものっ!?…まぁいい。アンパンに教えてる暇があんだったら、てめぇが助けに行けば良かったのにな」
 そうしたらバイキンマンは何もされずに済んだのに…。カレーパンマンは呟いた。
「結局アレは入れられてないでしょ。アンパンマンの株も上がっただろうし。今頃二人でイイコトしてるんじゃないですか?」
 にやにや笑う食パンマン。カレーパンマンは呆れてため息をついた。
「それに隠し撮りしてましたから」
「えぇっ!?」
「可愛い子ちゃんには少々痛い目にあってもらわないと…ね?」
「っっってめぇ。黒幕はてめぇか!?」
「さぁ…」
 くすりと悪人笑顔で笑う食パンマン。
こいつ腐ってやがる…カレーパンマンは青ざめながら後ずさった。 






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