世界の中心で・後




「…っぅ」
 バイキンマンは、ふらふらしながら町の通りを歩いていた。
手は無意識に腹のあたりにかばうように当てている。
服は少々乱れ、目には生気が無く虚ろだ。
 周りから見るとアブナイ奴に見えるだろう。
 こんなに無防備で、丸腰で歩いていたらピョンきちやカバおにまた襲われるかもしれない。
 カツアゲされるかもしれない。
(…どーにでもなれ)
 いっそのこと、めちゃくちゃに壊して欲しい。
 そう、自虐的にことを考えてしまう自分がちょっと滑稽で笑った。


 人通りの少ない道。
「ロールパンナちゃーん!」
「…あぁ、カレーパンマンくん」
 後ろの方から声がしたと思ってロールパンナが後ろを振り返ると、隣にカレーパンマンが息を切らせて立っていた。
「へへ…」
「…なぁに」
 足を止めてロールパンナはカレーパンマンと向き直る。
ただ、趣味でよく行っている花屋に行くのが遅くなるのが嫌で少々眉をひそめていた。
「いや…別になんでもねぇんだけど」
「なんにもない?じゃあ呼ぶな」
 ロールパンナはそう言い放つとくるりと背を向けた。
「あぁ!嘘ですっごめんなさい。用事あるんだ!!」
 カレーパンマンは焦ってロールパンナの肩を掴む。
「じ、実はデ○ニーランドのフリーパス券が偶然二枚手に入ったから今度一緒に行」
「嫌だ!何すんだよ!」
 その時、通りに尋常ならぬ悲鳴が響き渡った。
「なにっ?」
「さ、さぁ…」
 二人が辺りを見回すと
「…バイキンマン?」
「と、みみ先生?」
 この町の良い子たちが通う学校教師、みみ先生がバイキンマンの肩を掴んでガクガクと揺さぶっている。
遠すぎで何を言っているのか分からないが、みみ先生の表情の険しさから何かトラブルがあったに違いなかった。
「バイキンマンっ!」
「お、おい!」
 ロールパンナが走り出し、それを追うようにしてカレーパンマンもみみ先生とバイキンマンの所へと走りだす。
「ロールパンナちゃ…助け、あうっ!」
 ロールパンナの姿を見たバイキンマンが助けを求めたとき、バシンっと分厚い本で机を殴ったような音がして、バイキンマンが地面へと倒れこんだ。
「…い、痛…ぇ?あ…何…」
 地面に尻餅をついたままのバイキンマンは、じんじん痛む頬に手を当てて自分の身に起きたことを理解できずにみみ先生を見上げていた。
「制裁よ!バイキンマン!お前のせいで私は…!!」
「バイキンマンっ!」
 ロールパンナが叫んで飛び出し、バイキンマンをかばうようにみみ先生とバイキンマンの間に立ちはだかる。
「…なによっあなた!」
「バイキンマンを虐めるな。私と戦え。お前を殺す」
 ロールパンナは視線をぴたりとみみ先生に当てて離さず、無表情でそう言い放つ。
「ロールパンナちゃん…?」
「ロールパンナ…?」
 バイキンマンとカレーパンマンが唖然としてロールパンナを見つめていた。
 なんかヤバい。
「は…っ、何を勝手に。悪いのはこいつなのよ!!貴方がしゃしゃり出てくる出番じゃないのよ!」
 みみ先生がロールパンナの威圧感に押されながらも、虚勢を張って怒鳴り返す。
いつもは綺麗に化粧もして、髪も服もばっちりきめているみみ先生が、今ではその面影がないほど荒れていた。
「…私はバイキンマンの僕(しもべ)だ。バイキンマンの命令はなんでも聞く。バイキンマンは私に助けを求めた。だから助ける」
 その言葉に驚いたのはカレーパンマンだ。
隕石が直撃したくらいのショックを受けてバイキンマンに詰め寄り、みみ先生同様バイキンマンをがくがくと揺さぶった。
「僕(しもべ)ってなんだよ!!僕って!!バイキンマンてめぇ隠れてそんなことやってたのかよ!不潔不潔!サイテー!!!」
「えっ、えっ?俺様はただジャムおじさんがロールパンナを作るときにバイキン草のエキスを入れただけ…」
 そのせいでロールパンナが二重人格になったことは周囲も承知済み。
「くらえ!ローリングハリケーン!!!」
「ぎゃー!!!」
 そうこうするうちにロールパンナの必殺技を受けたみみ先生は遠くへとふっとんでいった。



「…っっったく!!!」
「どうしたんだね、アンパンマン。珍しくイラついているようだね」
「えっ、えぇ?そーですか。全然だいじょうぶですよ、ぜんぜん」
 ぜーんぜん。そう言うアンパンマンの目は据わっていてかなり怖い。
 アンパンマンはパン工場で一服していた。
ジャムおじさんの焼いてくれた新作パンを食べながら、コーヒーをすすっている。
「また泣かせたのかい?」
 ジャムおじさんが誰のことを指して言っているのか分からないが、アンパンマンは先ほど家に訪ねてきた女のことを思いだしてしまい、苦々しい表情になった。
(ふざけるな…)

「私はあなたを愛しているのよ!」
「あんなオスガキのどこがいいの!」
 それでカっとなって口論。今になると自分が何を言ったのかすら思い出せない。
 きっとひどいことを言ったんだろう。
(しくじったな)
 みみ先生。バイキンマンと関係を持つまでに一度だけ関係した女。アンパンマンにとってはただの遊びだったんだけれど、どうも彼女はそうじゃなかったらしく。
 お互い大人なんだからさぁ…。そんなこと言ってもみみ先生は泣いて喚いてアンパンマンを殴りつけて椅子を蹴って出て行った。
 しかし、そんな修羅場を迎えていても、アンパンマンはどこか上の空だった。
 彼の頭の中を占めるのは、
たった一人の…、たった一人、
大切な人。
だけどいつも泣かせてしまっている人。
そして、やけに耳に残る最後の言葉
「さよなら、アンパンマン」

「はぁ…」
「…最近溜まってるのかい?」
 若い力は底抜けだろう。そういってアンパンマンの肩をぽんぽんと叩くジャムおじさん。
「ほら、これを使いなさい」
「え…?ま、まさか、これは伝説の…!!」
「あぁ、そうだよ」
 にっこり微笑む老紳士。しっかり親指も立ててアンパンマンを応援している。
「これであの子もメロメロさっ!」
「ありがとう!ジャムおじさん!!」
 ジャムおじさんの優しさにじ〜んとしながらも「このおっさん結構キてる」そう思ったアンパンマンはさり気に距離を置いて礼を言った。

 お床の中の漢(おとこ)のクスリ。
スーパーマグナム☆バイアグラン。〜真夏の夜の夢スペシャル〜

 ジャムおじさんがどこでこれを手に入れたのかは知らないが、有難く頂くことにしたアンパンマン。まってろバイキンマン!!ふふふふ。
でもバイアグラは気をつけないと危険なことになるから十分注意したほうがいい。
バイキンマンピンチ。


「ロールパンナちゃん…」
「ふう、もう大丈夫よバイキンマン」
 にっこりとバイキンマンに笑いかけるロールパンナ。
バイキンマンは、少し笑いかえしてロールパンナに礼を言う。
「ありがとう…」
「いいのよ」
 そう言ってロールパンナはバイキンマンにはにかんで首を振る。
けれどバイキンマンは不思議そうにロールパンナの顔を見た。
「…俺様、今日はロールパンナちゃんに洗脳してない。どうして俺様を助けてくれたんだ…?」
 本来、ロールパンナはバイキンマンに洗脳されて「ブラックロールパンナ」になって命令を聞くのだ。
だが今回は洗脳もしていないし変身もしていない。
バイキンマンの命令を聞くわけがない。
「え?え、えっとぉ…それは別に」
「…?」
「いいじゃない!別に。それよりまた絡まれたらダメだから家まで送ってあげる」
「あ、うん。ありがとう…」
 ロールパンナはさりげにバイキンマンの腕をひき、二人はバイキン城へと去っていった。

「ロールパンナ……」
 忘れられたカレーパンマンが一人、チケットを持ったまま佇んでいた。



「ただいま〜」
 バイキンマンが城に帰る頃には日がかげって空が赤く染まっていた。ロールパンナと別れを告げて、バイキンマンは城へと入る。帰りの途中、ロールパンナと会話が弾んだ。
 そのおかげでバイキンマンの暗雲たる気持ちは軽減した。相変わらず、体は重いしアソコは痛いし、昼間の出来事を思い起こすと頭も痛くなってくるけれど。
(アンパンマンの馬鹿…)
 敵意をむき出しにしていたみみ先生の顔がよぎる。
 バイキンマンはぎゅっと拳を握り締めて、それを見つめた。
 弱い自分。ことごとく弱い。前はきっとそんなのじゃなかった。
 あいつに会ってから全てが壊れ始めた。
(馬鹿…)
 その言葉は誰に向けられたものなのか。
 バイキンマン自身にも分からない。


「ドキンちゃーん?」
 城に帰ったはいいものの、中は静まり返って人影などない。
と思ったら、カビルンルンがぺたぺた走ってきてバイキンマンに飛びついた。
「…ドキンちゃんは?」
 カビルンルンはぴーぴー泣いてバイキンマンに縋りつく。
おそらく「どこ行ってたんだよー!おなかすいたよー!寂しかったよー!」そんな感じなのだろう。
 バイキンマンはため息をついて、台所へと向かった。

「何があるかな」
 冷蔵庫を開けて、残り物で夕食を作る。
ドキンちゃんはどこへ行ったのか皆目検討がつかないので、一応用意はするが、そんなにいい物は作れない。
 ごそごそと物色していたバイキンマンだったが、ふと善からぬ気配を感じて後ろを振り向くと
「ぎゃ―――っ!!!」
 アンパンマンが仁王立ちで後ろに立っていた。
「失礼だな、君は」
「ど、どっちが失礼だ!不法侵入だぞ!!」
「恋人の家に入ってはいけない法律が?」
「誰が恋人だ馬鹿――っ!!」
「ひどいな…」
 バイキンマンが真っ赤になって叫ぶと、アンパンマンは傷ついたように顔を曇らせる。
「君と仲直りするためにここに来たのに…」
「え…?」
 バイキンマンの胸が不覚にもとくんと鳴った。
 仲直り?俺様と…?
 アンパンマン、俺様のこと嫌いじゃないの…?
 昼間の様子がフラッシュバックして、頭の中に蘇る。
「嫌い」とあっさり言われてしまったこと。
酷いことをされたこと。みみ先生のこと。
「アンパンマン…」
「まぁ、それよりおなかすいたから適当になんか作ってよ」
「はっ…」
 突然やってきて何様だお前はっ!
「ほら早く」
 カビルンルン泣いてるじゃない。
そう言われてカビルンルンの方を見ると、確かにくりくりした目に涙を一杯溜め、頬を膨らませてバイキンマンを睨んでいる。
「あ、あぁ…」
 カビルンルンの機嫌が悪いのは空腹だからと思ったバイキンマンは、いそいそと台所で料理をしはじめた。
 しばらく、台所に立つバイキンマンの後ろ姿を見ていたアンパンマンだったが、何かを思いついたようにニヤリと笑い、バイキンマンの背中にぴったりと身を寄せるようにして立った。
ようするに、料理しているバイキンマンに欲情しただけなのだが…。
「な、なにっ…」
「いや、手伝おうと思って」
「別にいらない!向こうで静かに座ってろよ!」
「ははは…」
 バイキンマンを軽くいなして、アンパンマンはバイキンマンの腰を両手ががっしりと掴んだ。
「ここ、まだ辛い?」
「…っうるさ!」
「バイキンマン、辛そうだよ?まさかまだ中に入ったまま?」
 僕のセイエキ。
 耳元で熱っぽく囁かれる言葉に、バイキンマンの体は一瞬にして赤く染まった。
「…、こんなトコで…っ!」
 異変を感じたカビルンルンが、わらわらとアンパンマンの足元に集まってきたが
「うっせーチビ。…大人しくしてないと殺虫剤かけるよ?」
 アンパンマンに一蹴されて大人しくなった。
「こんな状態嫌でしょ?先お風呂に入ろーね。そこで体綺麗にしよう♪」
「ちょ、嫌だ…!馬鹿っ、離せ!嫌だぁぁ〜っ」
 アンパンマンにひょいと担ぎ上げられてバイキンマンは風呂場へと連行された。


 自分の体を這いまわる他人の手。
「ここ、気持ちいい?」
「ひぁぁっ!」
 嫌だ。嫌だけど抵抗できない。
 嫌い?きっと嫌いじゃない。好き?…それは分からない。
 あぁ、分かった。アンパンマンはバイキンマンのことを手軽な性欲処理に使っているんだ。
 だから俺様はこんなに苦しいんだ。俺様ってそんなくらいの価値なんだ。
だってバイキンだし。
「くぅっ!」
 急に性器を握られて、思考は中断させられる。
「相変わらず綺麗なピンク」
 そう言って、まるで自分の物のように撫でまわされる恥部。
バイキンマンのかみ締めた唇から吐息が漏れる。
 アンパンマンの腕の中で拘束されて、バイキンマンはなす術もなくただ羞恥に耐えていた。
「えっちだね…バイキンマン」
「俺様がっ…悪いんじゃ、ないっ!」
 そう言うと、アンパンマンはバイキンマンのそれを強く握って扱いだす。
 バイキンマンが叫び声を上げた。
「ひっ…い!痛い…痛いよぉ…っ」
「可愛い、バイキンマン」
 そう言って、アンパンマンは袋のほうをやわやわと触りだした。
バイキンマンはがくがくと膝を震わせる。
立ったまま手で犯されているのだ。
バイキンマンにとってはとても辛い。
 アンパンマンがシャワーを強めた。
ざぁざぁ音を立てて流れ出すシャワー。
 バイキンマンはその僅かな解放の時間に息を整えようとしていた。
「…アンパンマン、嫌だ…こんなこと、もう…」
 黒く短い髪から雫をしたたらせてバイキンマンは言う。
 まだまだアンパンマンと比べれば幼い体だ。
細くて鎖骨が目立つ。
肌は透けるように白いが、今はうっすら上気してピンク色に染まっている。
伏せられた睫が微かに揺れて、バイキンマンの辛そうな表情が覗えた。
「ふぅん。僕のこと嫌いなんだ…?」
 胸の中で生まれた言葉を押し殺して、アンパンマンはそう穏やかに尋ねる。
「ち、違うっ!」
 バイキンマンは弾かれたように顔を上げた。
その顔には困惑と焦燥が表れている。
「じゃあどういうことさ」
「あっ…!アンパンマンっ!そこ…だめ」
 ぴくんとバイキンマンの身体が震えた。
腕を突っぱねて体の密着を防ごうとするが、それもアンパンマンの腕の中では無力だった。
「詳しく聞かせてよ…どういうつもりだい」
 折角仲直りしてあげるって言ってるのに。
「うぁぁっ…く、やめてぇ…」
 長い指がバイキンマンの秘孔を探る。
アンパンマンが入り口にひっかけるようにして蕾を開かせると中からとろりとした白い液体が流れてきた。
「あっ!あぅ、やぁぁっ…」
 昼間、アンパンマンがバイキンマンの中に放ったものだ。
アンパンマンは目を細めてバイキンマンを見下ろしていた。
体内から流れ出す感覚にがくがく足を震わせ耐えているバイキンマンを見ていると、ある種の征服欲と嗜虐欲に火を付けられる。
アンパンマンは指を中に入れ、ぐちゃぐちゃにかき回した。
「いっ――っ!あっ!いやぁっ」
 自力では立てなくなったバイキンマンは、額をアンパンマンの胸に押し付けるようにして寄りかかる。
アンパンマンは蕾を弄っていた手を止め、シャワーへと伸ばした。
蛇口をひねって湯の量を調節し、バイキンマンの秘孔に押し当てる。
「ひっ…な、何を」
「綺麗にしてあげる」
 そうにっこりと笑う正義の味方。バイキンマンは信じられないというふうに目を見開いた。
「…おねがっ…やめ…死んじゃう」
 そう懇願しても聞き入れられない。
 アンパンマンの指が蕾を探って、シャワーのノズルが入り口に当てられる。
「あぁっ――っ!!」
 人肌の湯がバイキンマンの体内に注ぎ込まれてくる。
体を支えられているせいで座り込むことも出来ずバイキンマンはただ悲鳴と嬌声を上げ続けていた。
「どう…気持ちいい?」
 アンパンマンがそう言った直後、ぐいっとノズルの位置が変わり違う角度から責められる。
「いっ…苦しいっ。やめ…!おなかが、いや――っ!」
 バイキンマンが激しく身を捩って逃れようとするのをアンパンマンは片手だけで制した。
カタン、シャワーを置き、バイキンマンの顎を掴んで顔を覗き込む。
「嫌って言ってるのに反応してるよ、ココ」
 そう言ってバイキンマンの先端を弾いた。
バイキンマンは小さく悲鳴を上げてアンパンマンを突き飛ばす。
が、足に力が入らなくてそのままタイルの床に崩れ落ちるように座り込んだ。
「…お湯、まだ入ったままだ。辛いだろう?出していいよ」
「…っく。いや…いやだっ!ぅ…なんでっ、こんなこと…」
 ふるふると首を振るバイキンマンにアンパンマンは思わず双眸が緩む。
そのまま、優しい笑みのまま、そっとバイキンマンの下腹に手を伸ばした。
「…な、に」
 びくっと怯える小動物みたいなバイキンマンに、アンパンマンはこれ以上ないほどの優しい笑顔を向けてやる。
バイキンマンはその笑顔の意味が分からず、きょとんとしてアンパンマンを見上げていた。
その刹那、アンパンマンの笑顔が消え、彼の手がバイキンマンの下腹を強く押した。


 ぐったりとしたバイキンマンをお姫様抱っこして、寝室へと運び込む。
 真っ白なシーツは皺一つなく、丁寧にベッドメイキングされたままだ。
バイキンマンの几帳面さが窺えて、アンパンマンは苦笑した。
 アンパンマンはバイキンマンをそっとベッドの上に横たえる。
ほんの申し訳程度に着せてあるのは洗濯物から勝手に取ってきたバイキンマンのパジャマの上だけだ。
それもじきに脱がされることになるが。
「…アンパンマン?」
 背中に当たるひやりとしたシーツの感触で気づいたのか、バイキンマンはうっすらと目をあけた。
「んっ…」
 触れるだけのキス。アンパンマンはバイキンマンの頬を愛(いと)しげに撫ぜた。
 バイキンマンはそれでもまだ怯えた顔をしてアンパンマンを見上げている。
泣き声さえ上げなくなったのは、もう諦めたからだろうか。
「降参した?バイキンマン」
 アンパンマンはあらわになっているバイキンマンの太ももを手で撫ぜた。
するりとして触り心地のよい肌だ。
バイキンマンの身体をまさぐりながら、アンパンマンはバイキンマンの肌蹴られた服の間から、胸の突起へと口付けた。
「あんっ…」
 ほら、体は正直。アンパンマンはほくそ笑む。
「さぁ、仲直りしよう」
 首筋や鎖骨、胸にキスを落としながらアンパンマンはささやいた。
その微かな吐息の感触にさえ、バイキンマンはぞくりと感じてしまう。だけど
「…っ嫌だ!」
「……はい?」
 バイキンマンは、全身全霊力を込めて首を横に振っていた。
「嫌だ!嫌…!俺様アンパンマンなんか嫌いだ。アンパンマンのせいで、俺様っ…」
 食パンマンに襲われたりピョンきちやカバおに襲われたりみみ先生に殴られたり…。
 最近踏んだり蹴ったりなことばかりだ。
 全部アンパンマンのせいだ。
と、バイキンマンはそう思う。
 …でも。どうして俺様だけそんなに嫌な目に合うんだろう。
そりゃ、俺バイキンマンは嫌われてるけどイタズラ程度にしか悪いことはしていない…つもりだ。
(あ…)
 バイキンマンはふと思いついた。
みんな、アンパンマンが好きだから?
もしくはバイキンマンは相応しくないとか?
正義の味方が悪者と…だなんて、最悪な展開なのかもしれない。
 バイキンマンにはそうとしか考えられなかった。
特に今日のみみ先生の言動からして、きっとそうだ。
「僕のせいで…何だよ」
「…ぅ」
 パジャマの裾をぎゅっと握り締めて赤くなるバイキンマンは、それはそれは殺人的に可愛い。
それを見て、ふにゃりと溶けそうになる目尻をなんとか引き締め、アンパンマンはもう一度訊いた。
「どうしてそんなに素直じゃないの?」
「ばっ…お前っ!」
 思わず上半身を起こして抗議しようとする唇を無理やり塞ぐ。
「んっ!」
 が、その唇はすぐに離れてしまう。
「えっ?」というようなバイキンマンの物欲しげな顔がアンパンマンを悦ばせた。
こんな淫乱な体にしたのは誰だ?
その答えは簡単だ。
正義の味方はくつりと笑う。
「そろそろみんなに教えてあげようか。アンパンマンとバイキンマンは実は愛し合っていますって」
「…っ!?」
 ほんのからかいで投げた言葉だった。
バイキンマンの困ったような反応を楽しむつもりだけだったのに。
「嫌だっ!やめて!絶対誰にも言わないで!!」
「…バイキンマン?」
 バイキンマンは必死になってすがりついてきた。
「お願いっ、お願いだから、誰にも言わないで!」
 これ以上ないというほどに懇願するバイキンマン。
その姿にアンパンマンの方が圧倒されてしまう。

「…どうしてだよ」
 語尾が震えているのが分かる。
アンパンマンは自分の中に湧き上がる不可解な怒りに自己嫌悪した。
 確かに。合意の上じゃないかもしれないけど。
 バイキンマンは僕を怖がっているかもしれないけれど。
 そんなに隠したがるほど、僕を嫌いってこと?
 無理やりだって言いたいのか?
 
(あぁ…)
アンパンマンは胸中でつぶやく。
無理やりかもしれないな。
君を泣かせている以上は。

「言わないで…なんでもするから…ねぇ」
 そう言って見上げてくる瞳は涙に濡れていた。

その言葉に偽りは無い? 

アンパンマンは、ジャムおじさんからもらった薬を一粒、口に含んでバイキンマンにキスをする。
「んーっ!!」
 舌先で錠剤をバイキンマンの喉の奥に押し込み、無理やり嚥下させた。
「はっ…な、なにっ…」
「足開いてバイキンマン」
「…ぇ?」
「君と僕の関係は誰にも言わないからさ、ほら」
「…」
 アンパンマンがそう冷たく言い放つと、バイキンマンはおずおすと足を広げる。
恐ろしいほどに従順になったバイキンマン。
普段もこれくらい協力的だったら痛い思いはさせないのに。
「もっと」
「…っ恥ずかしい」
「開けろよ」
(バレた方が恥ずかしいんだろ…?)
アンパンマンはちっと舌打ちをした。
しかし羞恥に耐えているバイキンマンはそれに気づくことはなかった。


「…う、あぁぁ。嫌っ…いやだ…っく」
 くちゅくちゅと音を立てて引っ掻かれる内部。
充血し始めた秘部がきゅうっと切なげに萎縮するのが分かった。
胸の突起は痛々しいほど立ち上がり、食べて下さいといわんばかりに色づいている。
「あれも嫌、これも嫌。バイキンマンは我侭だね…」
 そんな君にはまってる僕も僕だけど。アンパンマンは心の中で苦々しく呟いた。
「ふぇ…アンパンマン…」
 緩い快楽を与えていた指が動きを止めると、バイキンマンは辛そうな吐息を漏らしてアンパンマンの顔を見つめた。
(おまけに淫乱…)
 結局自分は愛らしい双眸に見つめられるとどうしようも出来ないのだ。
アンパンマンは嘆息して、バイキンマンにキスをした。キスの仕方をまだ知らない舌先を吸い上げ、丹念に愛撫を施す。
それだけでバイキンマンの先端はふるんと反応を示した。
「バイキンマン…」
 アンパンマンはバイキンマンのわき腹に手を入れて、体を抱き上げた。
そのまま位置を逆転させて、自分がベッドに座りそれに向かい合うようにしてバイキンマンを自分の腹の上に乗せる。
突然景色が変わったことに、バイキンマンはわけが分かっていないようだった。
「自分で入れてごらん」
「えっ…」
「ほら。その方が君も気持ちいいだろ」
 とっとと入れろ。それは、命令に近い言葉だ。
バイキンマンは目を見開いてアンパンマンを見つめていたが、どうやら本気なのだと悟ると、アンパンマンの怒張を握りゆっくりと腰を下ろした。
「開いておかないと入らないよ」
 そんな忠告も耳に入らない。
 くちっと粘着質な音が自分の秘部から聞こえた。
「…アンパンマンの、熱い…」
 敏感な部分に当たる、他人の温度。
そして、何度も体験させられているアンパンマンの…。
それが今まざまざと蘇って、バイキンマンは躊躇した。
「…怖いよ」
 そう訴えてみても、アンパンマンは助けてくれない。
ただ冷たい目で見ているだけだ。
「…っ」
 バイキンマンはぎゅっと目を瞑って腰を落とした。
ぐちゅっという音が結合部分から漏れる。
それと同時に自分の入り口に固くて熱いものが侵入してきたのが分かった。
「あ、あ、やだっ…」
 一番太いところが、入り口で止まっている。
苦しい。
辛い。
だけどこれ以上進められない。
「アンパンマン…」
 泣きながら、バイキンマンは自分の体の所有者の方へと手を伸ばした。
「ほら」
 アンパンマンが突然腰をゆるく突き動かす。
「ぁんっ!」
 そのせいで漏れる甘い声。
バイキンマンの体の奥から湧き上がる疼き。
「はは、感じてるんだね」
「ちが…違う!」
 バイキンマンは信じられないというように首を振ったが、じんじんと疼きはじめる最奥の粘膜ははやく欲しいとひくついていて、バイキンマンに感じているということを知らしめた。
 もちろん、それはジャムおじさんのクスリのせいでもあるのだが、そんなこと知らないバイキンマンはショックで言葉を失う。
「もう全部咥えた方が楽だと思うよ?」
 そう言ってアンパンマンがバイキンマンの肩に手を置いた刹那、そこにぐぐっと力から入り、バイキンマンの内部にずぶずぶとアンパンマンの怒張が侵入していく。
「あ――っ!!あうぁぁ――っっっ!!!」
 夕食はバイキンマンだね。
そんなことを笑いながら言うアンパンマンの目は全然笑っていない。
まだ力の抜けきっていないバイキンマンのソコはアンパンマンを受け入れるにあたって、とてつもない圧迫感と痛みに襲われた。
騎上位での挿入のせいで、バイキンマン自身の体重も加わり根元までしっかりと咥えこんでしまう。
「ひ…、あぁ!…や、嫌…」
 熱くて大きな他人の肉棒。
バイキンマンの入り口をキチキチに広げて、中までいっぱいに埋め尽くしている。
心なしか、いつもより大きくて熱いのは何故だろう。
しかし、バイキンマンにそんなことを考える余裕など無かった。
「あっ…アンパンマンっ」
「自分で動かしてよ。欲しいところに擦り付けるだけなんだからさ。馬鹿な君でも出来るでしょ」
「…い、うぅ。無理、無理…!!」
「そんな可愛い顔してもダメ」
 にべつなく言い放たれる冷たい言葉。
バイキンマンは、どうやらアンパンマンは本気らしいと悟り、絶望に近い感覚を覚えた。
「ひっ…く、アンパンマンの…馬鹿!」
 バイキンマンは、ぎゅっと目を瞑り、思い切り腰をひいた。


 俺様がアンパンマンのこと好きって分かったら…
 みんな怒るかなぁ…。嫌だ…。

 みんな俺様のこと嫌いだから
 アンパンマンのことも嫌いになるかなぁ…。

 …それは無いか。

 でもみんなにバレたら

 アンパンマンはもう二度と帰って来てくれない気がする…。

 嫌だ…。


「あぅっ、ん、んぅっ!」
 二人分の体重で軋むベッド。ひたすら嬌声をあげて腰を動かしているバイキンマン。
その体を支えているアンパンマンは楽しそうにバイキンマンの乱れ様を観察していた。
「ひぁっ!ああぁぁぁ―――っ!!」
 バイキンマンの体がびくんと一際大きく震えて、バイキンマンの先端からびゅくっと白い飛沫が飛び散った。
「あ…はぁ…」
 バイキンマンはぐったりとアンパンマンに身を委ね、肩で荒い息を繰り返している。
「…よく頑張ったね」
 額に落とされる軽いキス。
バイキンマンは虚ろな目をしてこくんと頷いた。
 度重なる酷いセックスのせいで、バイキンマンの体力は限界だった。
焦点が定まらず、虚空を彷徨って今にも気を失いそうだ。
「でも、僕まだイってないから」
 そんなバイキンマンに、平然と言われる残酷な言葉。
アンパンマンは、思わず逃げ出そうとするバイキンマンの腕を捕らえ、ベッドに押し付けた。体勢逆転。
アンパンマンの口元から笑みが零れる。逃げ出そうとしても、どうせ体は繋がったままだから逃げ出せやしないのだ。
やっぱり馬鹿な奴。
「あ、アンパンマン…っっ」
 達したばかりで体に力が入らないバイキンマンの足を持ち上げ、目一杯広げてみせる。
すっかり充血して、濃いピンクになったバイキンマンのそこ。
酷い陵辱をされてもまだ儚げにひくひくと収縮している。
「いくよ?」
「…ぇ、あっ、あっ、あぁっ!やぁっ!」
 形容するならズコズコと突き上げられる後孔。
ただ、実際にはそんな生易しい音ではなく、じゅぷじゅぷと盛大に卑猥な音を立てて穿たれていた。
「あぅんっ!あーっ!あぁぁーっ」
 バイキンマンのいいトコロばかりを攻め立てるアンパンマン。
バイキンマンは達した余韻に浸る間もなく次の絶頂へと導かれていた。
ひくんっと先端が反り返って、体の奥から熱いものがこみ上げてくるのが分かる。
「――っ!…――っ!!」
 二度目の吐精は、鈍痛がした。
一度目よりも薄い色のミルクはだらだらと流れてシーツを汚す。
「また、イったんだ。堪え性がないね」
「ひんっ、あぅ!」
 達したせいできゅぅぅっと締め付ける内部をかき回しながら、アンパンマンは薬の効き目に嘆息していた。
ある程度予想はしていたが、これほどまでとは…。
「僕はまだまだだからね!」
 バイキンマンは泣き声をあげながら、とろとろと透明な液体を吐き出し続ける。
最早「イキっぱなし」になったらしい。
アンパンマンにとっては好都合だ。
アンパンマンはなおもガンガン腰を打ちつけた。
「バイキンマン…残さず飲んで」
「―――っい!」
 バイキンマンがびくんっと背を反らせて腕をつっぱった。
「――っ!熱い!あつ…っ熱い――っ!!」
 体内に吐き出される、熱くて量の多いアンパンマンの…。
 それを感じると同時に、バイキンマンは気を失っていた。


「あ、あぅぅ…」
 バイキンマンは、暗いところで目を覚ました。
体に残るまだ、体内にアレが残っている感じがする。
犯された後は大概そうだが、体内に異物が残っているような感じがして、とても心地が悪い。
その上体内に出された日は、頭がぼーっとして熱さえあるような気がするのだ。
「あっ…!アンパンマン!」
 どこ?
バイキンマンは急に孤独感に襲われて泣き声まじりの声を上げる。
「ここ」
 声にした方に顔を向けると、アンパンマンが窓辺に立っていた。きちんと服を着て、いつも通りの格好をして。いつも通りの笑顔で。
「ごめん、君が失神した後も止まらなくてさ」
 言ってることはとんでもないことだったけれど。
「アンパンマン…!」
 走り寄ろうとして、バイキンマンはベットから転げ落ちた。
腰に力が入らない。
その上裸で精液まみれ。
そんな自分に泣きたくなった。
「じゃあ僕帰るから」
「え、えぇっ!待って…!」
 そう言った声はひどいダミ声。
バイキンマンは咄嗟に首に手を当てた。
掠れてどうしようもないほどガラガラ声になっている。
「バイキンマン…」
 頭の上から、優しい声がして、バイキンマンは顔を上げた。
「愛してるよ…」
 その言葉を何度、聞かされただろう。
だけど、バイキンマンが思っているほどにその言葉に意味はなく、ただ情事が終わった後に交わされるだけの言葉なのだと、バイキンマンは思った。
 分かっていても、ひくっとしゃくりあげて泣いてしまう。
「ごめん…」
 アンパンマンはバイキンマンの両肩に手を置いた。
包み込むように肩口を撫ぜる。
そのとき、バイキンマンが何かを呟いた。
「え?なに、聞こえないよ…」
 アンパンマンがよく耳を澄ますと
「俺様…バイキンだし、綺麗じゃないし…体だって、貧相だしっ…分かってるもん。そんなこと…」
「…どうしたのさ」
 びっくりしてバイキンマンの顔を覗き込むアンパンマン。
それをバイキンマンはキッと睨み返して叫んでいた。
「アンパンマンは本気じゃないんだろ。別にっ…いーもん。俺だってホントは、ホントはあんなことされるの嫌だったんだぞ!
…アンパンマンが外でするから!食パンマンにも脅されたしそれで…俺様、俺様…っ」
 そこでまたぽろぽろと涙を零すバイキンマン。
アンパンマンは当惑したままバイキンマンの背中を撫ぜた。
「ひっく…俺様、嫌だった…嫌…食パンマン怖、くて…カビルンルンだって、あんな子供なのにヤられそうになって…!
アンパンマンのことばっか考えてた…っく、けど、最後まで…ヤられちゃったから…っ」
「え?それ、どういうこと…」
 どういうこと?と訊いておきながら、アンパンマンはバイキンマンの言いたいことは大体分かりはじめていた。
頭の中ににやりと笑う紳士風の一人の男が現れる。
(食パンコロス…!)
 が、バイキンマンはまだ何かを言いたそうにしていた。
「…俺様がっ、アンパンマンのこと、好きって分かったら、みみセンセ、に、殴られたっ…。
俺様、やっぱり、アンパンマンのこと、その…スキ…になったらダメみた、い。みんな…怒るし、だから…」
 そこで途切れる言葉。アンパンマンは堪らなくなってバイキンマンを思い切り抱きしめた。
「…馬鹿。ほんと馬鹿だね、バイキンマンは」
 そういってアンパンマンはバイキンマンの涙を拭う。
アンパンマンの言葉に傷ついたバイキンマンは、顔を伏せてアンパンマンの手から逃れようとした。
「君がそんなに悩む必要はないのに…。愛してるよ、バイキンマン。愛してる…」
 ふわっと羽が舞い落ちるくらいの軽いキス。
愛してるのキス。
(ちゃんと理解してくれてるだろうね…?)
 鈍感なバイキンマンだから…。
アンパンマンは苦笑した。

「じゃあね、バイキンマン」
 頬っぺたにおやすみのキスをして、アンパンマンは窓から出ていった。
 バイキンマンは、それをベッドの上で見つめながら、いつの間にか眠ってしまっていた。


次の朝。
やっと帰ってきたドキンちゃんは、何故か目が腫れていて疲れた顔をしていた。
何かあったのかと心配になったバイキンマンだったが、自分はそれ以上に酷い顔をしていたしそれどころでは無かったので、シャワーを浴びてから朝ごはんを食べ、二人して自室に篭って一日を過ごした。


「…食パンマン、ちょっと話があるんだけど」
「え?何ですか?アンパンマン」
「まぁ、ここに座ってよ」
「いや、別に立ってでも構いませんけど。ここ外ですし」
「まぁ、いいから」
「はぁ…」
「いいから、座れ」
「………なんですか?」


「アンパンマン、食パンの奴知らねぇ?」
「うーん、知らないなぁ」
「ふーん。あ、何植えてんの?それ」
「あぁ、これは植えるんじゃなくて埋めるんだよ。生ゴミを」
「生ゴミはゴミ収集車に持っていってもらえよ…。なんだよ、埋めるって」
 カレーパンマンはその時思い出したように
「そうそう、ロールパンナ知らねぇ?」
「さぁ…メロンパンナちゃんと一緒にいるんじゃない?」
「ふーん。まぁ…そーだよな」
「何かあった?」
「いや…なんにもねぇって!!」





→オマケ?

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