夜明けの晩に





せいぜいあんたは幸せになりよし。

  ムカつく奴に嫌味を言われた。むしろ呪詛か。

「充分幸せだっちゃ」


 それを聞くとアラシヤマは、そんならえぇどすけど。と意味深な笑み(…笑み?)を浮かべて去って行った。
「相変わらず陰気臭い奴だっちゃ」
 苦々しげに吐き捨てると、僕はミヤギくんを探しにガンマ団の食堂から出た。

 ミヤギくんは太陽だ。
 何万回と使われていそうなフレーズだが、トットリは本当にそう思う。
   だからいつもミヤギと一緒にいる。いたい。
   ミヤギくんに嫌われるまで傍にいる。

 闇に捕らわれているアラシヤマはどうだっていい。
 きっと好きでいるのだから。
 でもトットリは違う。
 アラシヤマと比べられる要素などどこにも無い。
 幸せ度は遥かに上なのである。 
 なので、トットリはアラシヤマを大抵は無視か、言葉を交わしても嫌味を言っておしまいだ。


(けど、なしてシンタローはアラシヤマを)


「あ、ミヤギくぅ〜ん!!」

 廊下に出てウロウロしていると、ようやく大好きなベストフレンドの姿を見つけることができ、トットリはダッシュして飛びついた。
「トットリ、どこ行ってたんだっぺ〜」
「ミヤギくんこそどこ行ってたんだっちゃ〜っ」
 幸せだ。と思う。少なくとも今幸せだ。
 今度アラシヤマに会ったら、嫌味をふんだんに織り交ぜつつ幸せだということをアピールしてやろうと思った。
「トットリ、晩飯食いに行くべ」
「だっちゃ!」
 先ほど、とっくに夕飯など済ませたというのに、トットリはおくびにも出さずミヤギについて行った。




「奴がよく愚痴を言いに来るのですが」

 特選部隊の一人、そして奴の師、マーカーが切れ長の目を一層細めて俺を見る。
「あぁ?なんでだよ」
 誰のことと言われなかったのに即座に自分のことと思い当たったわけは、悲しすぎるほどに思い当たることがあるからだ。
 シンタローは若干後悔と焦りを感じたが目の前のチャイニーズは特に気にした様子もなく言葉を続けた。

「不出来ではありますが、土嚢にはなるでしょう」
 奴の師は、さらりと非情なことを言う。
 しかし、もし本当にそんなことをしたのなら、天地がひっくり返るような制裁を受けることになるだろうが。
「そんなくだらねぇ話のために時間を割いてんじゃねぇぞ」
 不機嫌な顔をして無理やり話を変えると、マーカーはにやりと笑って「そうでした」と言った。
 しかし、黒いハズの瞳は、何故か青い炎のように燃えていて、多分、それが彼の本音なのだろうと思う。
 だが、淡々と進められる報告。現在の戦況。おそらく、特選部隊がガンマ団においての、最後となるであろう任務。アイツは知っているだろうか。
 マーカーの、すらすらと機械のように動く唇は、すっかりアイツに受け継がれてしまっている。
 こいつらの得意技は、炎が使えることでも何でもない。
 自分を押さえつけることだ。


「アイツが実家に帰りたくなろうが、俺がアイツをお前に返すのは、死体になってからだ」
「は」
 機械人形が若干訝しそうな顔をした。
「……分かった。以上で全部だな」
「はい」
 マーカーは、やはりシンタローが口走ったことなど毛ほども気にする様子もなく、部屋から出て行った。
 マーカーは完璧な機械人形(に見せかけて結構好き勝手やっている)のだが、アイツはまだそこまで……。
 自我を持っていないのか、純粋すぎるのか。




「シンタローはん、入りますえ」

 あぁ、馬鹿が来た。




 夜。


 ミヤギと別れて、トットリは一人総帥室へと向かった。
 夜に任される任務は、団内でも公に出来ない、暗部の仕事。
 それが忍びの仕事。
ノックしようとして、ふと動作を止めた。


 総帥の部屋から、誰かの荒げた声が聞こえる。
 いや、誰か、などではない。トットリが知っている、あの気にくわない……。
 もちろん、総帥の部屋だけでなく幹部の部屋全ては防音仕様で、忍びをやっていなければ、聞こえない程の微かな音である。
 むしろ、幻聴の方がどれほどマシか。


 扉の前で硬直していると、自動ドアが開いてアラシヤマが飛び出して来た。
「おわっ」
 普段冷静沈着なアラシヤマは、今は目の前が見えていないようでトットリを突き飛ばすようにして廊下を走って行った。
 着衣は、乱れていた。
 トットリはなんだか嫌なものを見た気がして、軽く頭痛がした。

「いつものが失敗したんだらぁか?」
 物音を立てず自分の背後に立つ若き総帥に、わざと明るい口調でとげのある言葉を投げつける。
 総帥はそれに返事をしなかった。
「シンタローはアラシヤマのこと適当な性欲の捌け口だと思ってるだぁか」
 随分とストレートに、不躾に言ったつもりだったが、若きガンマ団総帥はぴくりとも表情を変えずに「あぁ」と言った。
「そうだな」
 その通りだろう。総帥の、アラシヤマに対する態度はそんなものだ。


幸せになりよし。


 アラシヤマはどんな顔をして言ったんだろう。


「そんなんじゃアラシヤマは死んでしまうわいや」
「は?」
「で、何の用だわいや」
 トットリはあからさまに不機嫌な顔をして、総帥を見遣った。

「…は?俺来いって言ったか?」
「〜〜〜ったくぅ……」
 てんで噛みあわない会話に、トットリは苛立ちを覚える。
 そこまで動揺する位なら、追いかければいいのに。
「用が無いなら帰らせてもらうっちゃ」
 総帥が呼び止めるのも聞かずに、トットリは総帥室を後にした。なんだか知らないが、無性に腹が立った。






30minutes ago――


「シンタローはん、入りますえ」
 書類も持たず、手ぶらでアラシヤマは入ってきた。手ぶらなのは当たり前だ。シンタローが個人的な用事で呼んだのだから。
「遅ぇよ」
 本当は一分たりとも遅刻していない相手に、小言をぶつける。
「こんなん時間外労働やわ」
 そう言ってアラシヤマは椅子に腰掛ける。「あ、お茶でも淹れましょか」よく気がつく参謀は、いそいそと簡易キッチンへと足を運んだ。
「なぁ、おい」
「へぇ。あ、緑茶でよろしい?」

「あぁ。や、そうじゃなくて。ちょっとこっち来いよ」
「せかさんといて。すぐに行きますさかい」
「今、来い」
「なんやの」

 アラシヤマはコンロに向かったまま、こちらを向かない。
 シンタローは胸中で焦り始める。アラシヤマはこれから告げるあのことを知っているのだろうか。

 いや、もしかするとそうではなく、ただ単に火から目が離せないというだけかもしれない。その可能性の方が高い。しかし、こちらを向かないだけでこんなにも不安になる。
 何故だ……。
 いつもいつも『心友』などほざいて付き纏うくせに、いざ自分がいなくなった時、こいつはさっさと身を翻してどこか別の場所へ行くだろう。
 そんなことどうだっていい。
 今は、言わなくてはならない事がある。
 もしかするとそれは、アラシヤマと自分の関係を崩すきっかけになるかもしれないけれど。










「……っ!?」

 突如、後ろから伸びてきた腕がアラシヤマを抱きすくめた。
「どしたん…シンタローはん」
 アラシヤマは抵抗などしない。何故ならこれこそアラシヤマの望んでいることだから。
 シンタローからの返事はない。
「シンタローはん?」
 くるりと向きを変えて、愛しい人の顔を覗き込む。

 このように、何も言わずに抱きしめてくる時は、何かに疲れている時なのだ。
 そんな時、一番に頼りにされていることを、アラシヤマは嬉しく思う。不謹慎ではあるけれど。
 口元に笑みを浮かべて、アラシヤマはシンタローの頬を両手で包み込み、軽いキスをした。


「…」


 シンタローの顔は、驚く程に思いつめていて、アラシヤマは不安になった。


「…いや、やわぁ」


 どないしたん?シンタローはん。そないな顔せんとって。

 シンタローの指が、ゆっくりとアラシヤマの制服のボタンを外す。その指は、何かに戸惑っているようで、躊躇しているようで。
「あの、自分で……」
 アラシヤマはシンタローの手を制して、自分でネクタイを弛め、カッターのボタンを外しはじめた。


実は、こういった行為自体はあまり好きではない。この直前の落ち着かない空気、行為の最中のふと感じる背徳感。
 むしろ、苦手ですらある。

 しかし、これによってシンタローが回復するのなら、自分は全く厭わない。

 カッターのボタンが全て外し終わった時、シンタローが何かを呟いた。
「へ?なんて……?」
 アラシヤマが再度、シンタローの顔を覗き込むと―――






「……特選部隊を、ガンマ団から離脱させる」

 アラシヤマの瞳が、見開かれた。

「お前が、ガンマ団を抜け出すことは許さない」

「逃げ出せば、それなりの報復を受けてもらう」

 頭の悪くないアラシヤマなら、分かっているだろう。

 それが意味することはつまり、「死」だ。

「お前はずっとここにいろ」


 訊いているのに、高圧的な態度。


 何故こんな言い方しか出来ない?






『お前はずっとここにいろ』


 当たり前どす。わては……

 わては……

「わて…―――」

 だが、言葉が続かなかった。


 泣いている?自分はこんなことぐらいで泣くのだろうか。

 きっと日頃溜め込んでいたもの全てが、この予想だにしない展開についていけなくなって決壊しただけなのだ。
 愛しい人が、手を差し伸べて頬に触れてくれようとした。






                  師が、いなくなる。


                   この男は師を切り捨てた。師だけでなく、かつての仲間も。




          自分にとっては、仲間以上の彼らを。




「……わての代用品なんか、そこら中に居りますやろ」

 冷静を装ったつもりが、ふいに口をついて出た言葉。

 刹那、何故か泣きそうな、落ち込んだような、愛しい人の顔。

 違う。

 訂正しなくては。

 自分はずっと貴方の傍にいる。と。

 これじゃあ、まるで―――。





「アラシヤマ」
「――っ。いやや、離せっ」
 纏わりつく手を振り払い、アラシヤマは部屋の外へ飛び出した。






 知ってましたえ?

 ガンマ団内の動きくらい。


 それに、わてはとっくに親離れしたつもりやったし(そもそもあんなに怖いお師匠はんに未練なんぞ…)


 なんでずっと傍におりますって言えへんかったんやろ。


 あほやわぁ。

 ここにいろ、なんて、多分、これからもう二度と言うてもらえへんのに。





 でも、しばらくは顔を合わすのが辛い。
 幸い、「あの人」は明日から遠征。
 「あの人」の遠征を喜ぶなんて、前は考えられないことだったのに。




 Two weeks later




「ふふ…あんさん見とると、悔しいんか苦しいんかムカつくのか分からんよぅになるわ」
 中庭の隅に生えている木の根元に背中を預け、アラシヤマは言葉を吐き出した。
「あはは。僕はアラシヤマを見てるとすごく気分が悪いっちゃ」
 一瞬燃やされるかと思ったが、アラシヤマは少し間を空けて「そうどすやろなぁ」と呟いて、遠い目をした。
「……そうどすやろなぁ」
 二回目のそれは、きっと、トットリに向けてのものではないだろう。
 その、誰に向けられたか分からない会話のキャッチボールをトットリは地面すれすれの所で受け止めた。
「あとっ。僕ぁすごくすごく幸せだっちゃ!」
 思い出したようにそう叫ぶ。
 アラシヤマは何のことだか一瞬分からないという顔をして(当たり前だ、脈絡もなく、しかも二週間前の会話のことなのだから…)、トットリは会話を無理やり続けたことを少し後悔した。


「わても、幸せやと思いましてん」
「…なにが」
 ぎょっとして、トットリはアラシヤマの方を向いた。
 返答を挟む間もなく、アラシヤマは続ける。
「まず初めはな、特選部隊に居た頃。お師匠はんなぁ、怖い人やねんけど、ほんまはすごく――」
 そこでアラシヤマは口ごもった。
「わてなぁ、お師匠はん好きやったんどす」
 それは、本当だろう。これは恋愛の感情ではなく、親子としての愛情。そして、マーカー自身もきっと。
 ただ、なぜそれが出てくるのかトットリには分からなかった。
「……あかんわ。わて、両方失くしそうや」



 両方とは、つまり…。



「なんのことだかさっぱりだわいや!」

 トットリは変に明るい声を出したことを自分でも気付いていた。微妙に裏返って、端々が震えた。



 沈黙。気まずい沈黙。


 すると、

「読書するさかい、静かにしておくれやす」


 アラシヤマは突然そう言って、脇に置いてあった分厚い本を本当に読み始めた。トットリのことなど気にする様子もなく。
 

「煩いのはそっちだわいや…」

 トットリはなんだか拍子抜けして、こっちも寝るから静かにしろと言い返し、木の根元に座りなおし眠りの体勢に入った。
 眠ると言っても、微妙に神経が高ぶっているせいでなかなか眠りはやってこない。
 そもそも、中庭で睡眠をとるということ自体が間違った発想なのは知っている。
 ただ、なんとなく寄ってみただけなのだ。
 するとそこに、影の暗〜い、友達のいなさそうな、知り合いという名の赤の他人がいたものだから……。


(ふん…アラシヤマのくせに僕の睡眠を邪魔するとは生意気だわやっ)

 トットリは一人で頭の中のアラシヤマに八つ当たりをした。



 陰気な奴がますます陰気になって中庭が苔生しそうだっちゃ!

 お前はいつもシンタローの後追いかけてればいい…――そっか。シンタローは遠征だわな…

 そいのせい…?


 まさか、そんな今までだって…

 じゃあアラシヤマは何をそんなにふさいで……?

 あぁ、マーカーのせいだわや。

 お師匠はんがどーしたってゆーっちゃ。

 あいつはシンタローさえいれば…―――。

 あ、それも関係しとーっぽい…。

 シンタローと、ガンマ団抜ける抜けないで喧嘩してたっちゃ……


 ……抜ける?アラシヤマが?なして?



(くぅ〜!!イライラする〜〜〜!!)

 考えても考えても分からない。アラシヤマにイライラさせられている自分にもイラつく。
 こいつはいつもいつもいつもいつも…!
「アラシヤマっガンマ団を抜けてみぃっ。許さな」
 がばっと起き上がって、トットリはアラシヤマに掴みかかった。
「やめへんよ」

 即答。


「やめるわけあらへん。」
 トットリは行き場を失った拳を情けなく空に放置したまま、アラシヤマの顔を見た。
「シンタローはん好きやもん」
 はっきりと「好き」と言い切ってしまうアラシヤマに、トットリの方がうろたえてしまいそうになる。
 トットリは、アラシヤマから手を離し、元の場所に戻り元の寝る体制へと戻った。
 アラシヤマはさらに続ける。
「あんたもな、嫌いちゃいます。ガンマ団はな、はたから見たら危険で危ない集団かもしれへんけど、わてにとって居心地のいい所やの」
 ふぅん。トットリは、これ以上ないほど適当に相槌を打った。そんなこと、僕には関係ないっちゃ。と言わんばかりに。実際そうだし。

ただ、少しだけ安心した。


次の沈黙は、苦痛ではなかった。




「忍者はんがアホ面さらしてあのミヤギの所に走っていく姿、滑稽どすえ?もう、背中から『ミヤギくんのこと大好きだっちゃ〜』ってバレバレで」


 ちょっと羨ましいってことは、言わんときますけど。

 妬ましいのは、日々の態度で示してますけど。


 ふざけるのやのうて、真面目に、本気に、言えたらいいのに。
 いや、真面目も本気も通り越して、毎日挨拶みたいに当たり前に言えたらいいのに。

 あぁ、こんなに想っていることを伝えられたらいいのに。 

 あの瞬間、こんなに想っていることを伝えられたら良かったのに。


「そや、わてシンタローはんと仲直りせなアカンの。…て、もう寝たん?早すぎちゃう……忍者はん」






「おい、珍しいモンが見えるぜ」
「なんだっぺ」
 遠征帰りで間もない総帥が指差す先にあるのは
「トットリ!」
 忍者のくせに無防備な寝姿をさらしているベストフレンドと、
「アラシヤマの奴…迎えにも来ねぇで」
 根暗京美人。
「トットリ、探しとったのに〜」
「仲悪いくせに仲良さそうじゃねーか。二人でお昼寝とはなぁ」
 シンタローと目を細めて言った。
「仕事さぼりやがって」

 ここをどこだと思ってやがる。減給だ。

 マジだっぺ!? 総帥は鬼だべ!



 それはそうと、ガンマ団NO.2と忍者が仲良く揃って、眠っている。
 本来、眠っている間も神経を尖らせているような職業なのに何故か二人とも本当に眠ってしまっているようだ。
 お互い何かあれば相手が先に気付いて対処するだろうという、変な信頼のもと成り立っているらしい。
 普段は犬猿の仲だというのに。


 ほんの少し、若き総帥の顔が弛んだ。





「トットリぃ」

 ミヤギが指先でトットリのほっぺたをつつくと、あどけない顔の忍者はぱっと目を覚ました。
「みっミヤギくん!!ミヤギくんっ!!」
 ぎゅうぅと人目も憚らず抱きついてくるベストフレンドを抱きしめ返してやりながら、よしよしと頭を撫でてやる。
 トットリは嬉しそうにひっついてミヤギの手の感触を感じていた。しかし…


「……アラシヤマは?」
 今さっきまでいた、根暗の姿が見当たらない。
 どこに行ったのだろう。
 今なら幸せなところを見せ付けてやれるのに、と思ったトットリだったが、ミヤギの指示す方を見るとそこにはシンタローを追いかける根暗の姿が見えた。


「アラシ――もごっ?!」
「トットリぃ。おめぇ、ほんと子供だべ」
 ミヤギに呆れた顔をされて、トットリはシュンとなる。


 どう見てもアレは……。

 ミヤギの示す目線の先には、並んで歩く二つの影があった。




「シンタローはん、わてな、言いたいことがあるんどす」


「だろうなぁ……」


 こんなところでいいのか?重大な話なんだろ

「わてなぁ……あぁ、アカン。緊張して言えへん」

バカかこいつ。あぁ、バカだったな。

「あの…っシンタローはん…わて、は…」
 振り向くと、眉根を寄せたアラシヤマの顔があった。
 ほんのり頬が染まっているのは気のせいではないだろう。
 何度も言葉を紡ぎだそうとして失敗しているのが分かる。

「わて…さっき忍者はんと話してたんやけど…」
「…ふぅん?」
「やめるんかって訊かれた時に、絶対にやめへんて言うたん」
 なんだそれ。トットリに訊かれて即答したわけ?お前……。
「その……理由が……シンタローはん……が」

 そこまで訊いて、シンタローはため息と共に苦笑した。

 伊達に総帥やってるわけじゃねーから。
 やっぱりこういう仕事してると、人の気持ちとか、感情とか、ある程度読まないとやっていけないわけで…
 つまり、鈍感ではやってられないわけで…
 だから、今のこの状況とアラシヤマの表情から推測できることは―――。






「……っ、シンタローはん?」
 びっくりしたようなアラシヤマの顔。
「……なんで今…?」
 誰かに見られているかもしれないのに。
「もう一回してやろうか」
「結構どす」

 アラシヤマは先ほどの表情から一変して、迷惑そうな顔になる。

「やる」
 たかがキスじゃねーか、とシンタローは言う。
「アホやなぁ。これは好き合ってるもん同士がするんどすえ」
「アホはお前だ」
 ぴしっと鼻面をはじかれてアラシヤマは面食らった。
「わてはアホちゃいます!」
「……今気付いた。ホントお前馬鹿だよ」

 ほんの少し、呆れた顔の総帥。でも、どこか嬉しそうな顔。
「燃やしますえ」
 アラシヤマも、少しだけ嬉しくなる。
 思い出した。そうだ。この人を悲しませることなんていっぱいあるけど、――あるから、自分は悲しませてはいけないのだ。


 簡単じゃないか。何を迷っていたのだ。
「なぁ、お前さ、俺の為に死ねるよなぁ」
「は。……へぇ。そらシンタローはんの頼みならわて、何だってしますけど。あぁでもっ!今ここで死ねとか言わんでおくれやすぅっ!」


「言うかよ……」
 あきれ顔の総帥は、もう一度アラシヤマの唇にキスを落とした。






「それで結局、何がなんだっちゃ」
「オメ…ほんと鈍感だべなぁ。つまり、シンタローはアラシヤマのことがアレでアラシヤマもシンタローのことがアレなんだべ」
 アラシヤマは何事も無かったかのように日々を過ごしている。もちろんシンタローも。
 少し変わったのは、アラシヤマが前よりももっとうざくなったこと。前よりもっとシンタローにアピールしだしたこと。それだけ。




and Then…




「シンタローはん!!やっぱりわてが必要なんどすなぁっ」


「……ガンマ砲」



 第二のパプワ島。


 多分、アラシヤマは幸せそう。





言い訳:
 すみません、こんなん書いて…。まじすみません。
 そして、多分たくさんのサイト様で書かれてそうな特選部隊が脱退するというネタ。
 時間的にも旬は過ぎてるってこと、分かってます。
 あと、アラシヤマがキモシヤマでトットリがちょっとオバカでミヤギがへたれでなくてシンタローがへたれで、もーこれどうしようもないな。